『孤独のグルメ』にみる深夜のコンビニ

ここ数日、また『孤独のグルメ』を読み返してた。何度読んでも飽きないなあ。さながらホテルに置いてある聖書のように、いつでも手に取れるようベッド横の棚に入れてます。


この漫画の中で異色の回は二つ。12話のハンバーグ・ランチの回と、15話、コンビニ・フーズの回。どちらも、普段はメシ食ってる時、常に「独りで静か」であるはずの五郎ちゃんが自分哲学を破る話。前者は、客の目の前で店主が店員を叱ってて、不快になった五郎ちゃんがアームロックをかけるシーンで有名ですね。基本的に「孤独な」五郎ちゃんは、うまいもまずいも声に出すことはほとんどありません。ハンバーグ・ランチの回は、よほど腹に据えかねたのでしょう。


コンビニ・フーズの回はというと、五郎ちゃんを不快にさせるような人間はいません。しかし、いつもと比べて思考を声に出すことが非常に多い。



口に出して言ってないのは、店員に値段を聞いた時の「ずいぶんいっちゃったな」と、ふと我に返った時の「俺……いったいなにやってんだろ」という独白だけです。これは、深夜のコンビニという条件がそうさせているのではないでしょうか。大抵の場合、あの独白というのは、店の中で常連や家族連れが交わす会話と対比されています。初めて入る店で、基本的に五郎ちゃんはいつも異邦人で、喋る相手もいない。だから、周囲の和気藹々とした会話を尻目に、うまいのまずいのと胸中の独り言に留めておくしかない(と言っても本人好きでやってるわけだけど)。しかしコンビニ、しかも深夜となれば連れ立って来るのはせいぜいオールで飲んでいる暇な大学生くらい。あとはカップルか、基本的に「孤独な」人たちです。漫画で描かれているカップルが寝間着姿であることに象徴されるように、



人々はそこを自室の延長線上と認識し、昼間に食べ物屋で見られるような、外向きの交流は行われるべくもありません。五郎ちゃんもそんな雰囲気に油断し、ついつい独り言が多くなってしまったのではないでしょうか。


……いや、まあ実際に「ここはなめこ汁で決めよう」とか独りごと言ってる人がいたらどうかとは思いますけどね。表現の一つとしてならそういう考えもアリかな、と。あと単純にメシ食う場所じゃないから、とかね。


孤独のグルメ (扶桑社文庫)

孤独のグルメ (扶桑社文庫)