秋田禎信BOX/秋田禎信/TOブックス

秋田禎信BOX


慌てんぼうの秋田box 発売日前にやってきた 急いでリンリンリン 急いでリンリンリン 払っておくれよ金を リンリンリン リンリンリン リンリンリン。ということで18日(土)辺りには既に店頭に並んでたっぽい秋田禎信BOX。アニメイトで注文した分も発売日には届き、うちのサイトを経由してamazonで予約してくれた人にも無事発送されたっぽいので、安心して取り掛かることができた。


順序としては、未収録短編集→オーフェン→エンハウ、という感じで4日ほどで読了。特にゆっくり読もうというつもりもなかったけど思ったより時間がかかった。本のサイズはこちらの方が大きいのに、1ページ辺りの行数は一緒で、かえってちょっと読みにくかったからかな。装丁を担当してる宮脇高志はスレイヤーズVSオーフェン』『エンハウ画集』も手がけた人だった。

魔術士オーフェンはぐれ旅 キエサルヒマの終端


モツ鍋雑記に不定期連載されていた「あいつがそいつでこいつがそれで」の改訂版にしてこのboxの発端。「我が聖域に開け扉(下)」終了直後からスタートし、オーフェンたちが結界の外を目指しキエサルヒマ大陸を脱出するまでの話。大陸はオーフェンが引き起こした混乱によって揺れに揺れていてハードな展開もあるけど、基本的なラインはクリーオウが真のヒロインとなるまでの変遷を描いたストレートな恋愛小説。あと、「同質にして正逆」の存在であるオーフェンとコルゴンの再対決。これを読んで秋田が少女小説レーベルで書いたらどうなるかなーと思ったけど、あんまり変わらないかな。


制作:ゆめ太カンパニー 製作:T.O.ENTERTAINMENT、でアニメ化してくんないなー、なんて思った。シャフトによる「閉鎖のシステム」、マッドハウスによる『火の粉』、P.A.WORKSによる『エンハウ』、トライネットの『エスパーマン』とかでもいいよ!


オーフェンがコルゴンとの別離の時に「サンクタム」でなく「コルゴン」と読んでいたり、webで読んだ時とは違った味も。web版の時の詳しい感想はこちら

魔術士オーフェンはぐれ旅 約束の地で・魔王の娘の師匠


「キエサルヒマの終端」から20年後の話。文章における秋田節の濃度は薄めで、代わりに設定、設定、新設定の嵐。今となってはBest Books of 2009の「画集・設定資料集ランキング」に本作を入れたamazonの判断は正し過ぎる。キャラは新旧混じりつつ世界設定がリニューアルされたという点で「Dクラ」の後日談を思い出した。


新たに追加された設定では、魔術(魔王術?)がやたらインフレしていた。壁に激突して死なない擬似空間転移とか構成を織り込むことによって呪文を打ち消せる音声魔術とかそんなのオーフェンじゃないわっ!くらいのことは言ってもいいんだろうか。神人種族の設定とかも含めてどこか「シャンク」を連想させたかも。「ガンザンワンロン」や「ウォーカー」といった単語も出てきたし、この話の何百年後が「シャンク」の世界だったりするのかね。「魔術戦士」というネーミングは正直どうかと思ったけど、やっぱり連邦の白い奴を意識してるのかしら。まずつしって呼ぶ度に噛んで印象を悪くする一般市民への配慮だろか。スウェーデンボリ―の「天使と悪魔」ってのは、エヴァで言うところのホメオスタシストランジスタシスみたいなもんかな。


以下は主にキャラクターについて。

  • 「誰も彼もが身内」というプルートーの言葉通りなところはある。あんまり世界が狭くなるのは嫌なので、ハーティア、ティッシ、フォルテ辺りがキエサルヒマに残っているのはバランス調整としてはよかった。
  • オーフェンは、政治ができるようになってた。校長ってのも意外だ。あれほど人に教えるのがうまくないと自分で言ってたのに。
    • フィンランディ姓を名乗るまでの経緯が知りたい。奥さんはクリーオウ・エバーラスティン・フィンランディになるのかしら。
    • 空っぽの棺。巨人種族=化け物になってしまった元人間。アザリー。
  • マジクは昼行灯。なんだか本編「狼」でフィエナに「あなたはあまり上を見ないのね」と言われていた頃のイメージに成長していた。
    • 「この人は、家に寄生してるマジクさん」「寄生?」「食費を払えばお客って言ってあげます」なんて光景を想像した。
    • 「キエサルヒマの終端」でトトカンタに帰還した時マリアベルと関係を持ったとか妄想中。
    • 穏やかならぬ想いを抱いていた人妻が掃除に来てくれる独身男の心境やいかに。「およそあらゆる意味であのふたりは参考にしたくないな」という台詞から読み取れるものは。
    • ブラディ・バース・リン改めランディ・バース・リン。
  • ラッツベインがエドガーの息子に憧れてると知った時のオーフェンの嫌そうな顔が目に浮かぶようだ。
    • ああ、飴の入った壷ってあのあとがきネタか。
  • エッジは名前が出てきた時、残りの姉妹はサクセサーさんとオブレザーさんだと思っていた。
  • ベイジットの幼さにはびっくりした。秋田作品とは思えない短絡。ここまで感情移入できないキャラって初めてかもしれない。
    • マリオでもマデューでも本人視点の地の文読めば、大体納得できるんどなー。理不尽大王みたいな描かれ方されてるプレ編のアザリーとかでも。ベイジットに関しては、どうにも。
  • みんながエッジエッジ言うのでぼくは未知数のラチェットを貰っていきますね。
  • コルゴンは普通に魔術使ってたなあ。魔術士の憂鬱突破したか。同居していた女性とどんな恋のスリルショックサスペンスが。
  • カーロッタは相変わらず最強だった。女神をちゃん付けで呼べるのは後にも先にも彼女だけだろうな。多分ラポワント市の名前の由来を想像してニヤニヤしてると思う。
    • そして触れられもしない教主さま。
  • ファンの間でチャイルドマンエキントラティシティニーアイリスバグアップ世代(本編10年前)-オーフェン世代(本編)-その子どもたち世代(本編20年後)それぞれで派閥が。


荒れてほしいとは思わないけど、それだけ熱狂的な読者がいることの証明と思えば、完結から6年越しのカップリング論争もいとをかし。遺恨完了!ファイトだ!

魔術士オーフェン往時編 怪人、再び


プレ編。当時はついに成し遂げられなかったチャイルドマン教室全員集合の話。「超人は世界を救わない」「個人では組織には絶対勝てない」がスローガンの「オーフェン」世界だけど、弱者(?)が力を合わせて強者に立ち向かう話がここまで真っ向から描かれたのは初めてじゃなかろうか。


今まで「なんだか分からないけど強い人」というポジションだった怪人ゼッドは、設定上の秘密が明かされてちょっと拍子抜け。かくして「怪人」ゼッドはただの「ヴァンパイア」ゼッドに。つくづくこれで最後なんだなーということを実感させられる。そういえば無謀編の終わり頃で出てきたヴァンパイア姉妹もやたら頑丈で力持ちだったなー。無謀編キャラはみんなヴァンパイアだったりするのかなーなんて与太話ができてしまうことが、少し寂しい。無謀編は無謀編、キースはキースでいいじゃない。


チャイルドマン先生の成績簿は、読んでて、「先生も所詮人間」説を補強する形となった。以前、先生は生徒の欠点を見抜いてそれに相反する技術を教えていった、みたいな話があったけど、これを見るとオーフェンの思い違いだったのかな。コミクロンの評価には泣いた。女の命である髪まで切ったのにあの言われよう……。あとは、ハーティアに「わたし好みの資質」とか言わないでください先生。ニヤニヤしちゃうから。

魔術士オーフェンまわり道(1)(2)


今はなき角川mini文庫から出ていたシリーズ。旅の途中、マコーウィックなる男に宝探しに巻き込まれ、いつの間にか悪のアジトに潜入する羽目になる「悪逆の森」と、ディープドラゴンVSミスとドラゴンの戦いを描いた「ゼロの交点」の二編。はぐれ旅の面子でコメディメイン、というコンセプトだったのかな。無謀編に比べ掛け合いよりドタバタが強めで、「スレイヤーズSP」に近い雰囲気かも。自分的には秋田作品の中ではあんまり評価高くない。「初恋編 アザリーの前髪」はまだか。

エンジェル・ハウリング from the aspect of MIZU サーヴィル・キングス(眠る王権)


ミズー編後日談。本編終了からそう時間は経過していない模様。「オーフェン」と違い追加された設定に特筆するべきところはない分、文章における秋田節の濃度は高め。本編とほとんど雰囲気は変わっていない。


ミズーとジュディアのイチャイチャ珍道中。「ロマンチストが板についてきたこと」なんてからかわれてるけど、そういうミズーだからこそ本編で何もかもがままならないことにイラついていたのかなあ、なんて思う。アクションシーンでは、急な崖を駆け下って敵陣に奇襲を仕掛ける辺りは最強の暗殺者の面目躍如という感じで、かっこよかった。本編でももっとこういうシーンが見たかった。が、端々で本編の時のようながむしゃらな戦い方をしていないことが見て取れて、変わったなあ、とも思った。相変わらずポンポン剣は投げてたけど。


しかしミズーとジュディア(ですよね?)の間に娘ができるってことはあの世界にもips細胞的なものがあるんだなー。本編ラストでミズーは花嫁に憧れてたから、ジュディアが花婿か。……「信じるに値しないことを信じる。それだけが本当の意味で信じるってことだとぼくは思うんだ」って「虚無主義か!」ばりに便利な台詞だなあ。カップリング厨・二次創作者的に。「設定なんて妄想だもの。いくらでもあるよ、そりゃ」というのも、見ようによっては、一次創作者を特権化しない、という点で便利な言葉のように思えた。設定は、それが作者の考えていることであっても、形にならなきゃ意味をなさない。

エンジェル・ハウリング from the aspect of FURIU ガールズ・ハンティング(握る幕間)


フリウ編後日談。ミズー編と同じで、本編終了からそれほど時間は経過していない模様。雰囲気もそう変わらず。


ミズー編がミズーとジュディアという20代のお姉さんカップルだったのに対し、こちらはフリウとマリオという10代の女の子のカップルが成立。二段構えの百合とか、秋田は悪いものでも食ったのか。でも、考えてみればフリウは同世代の人間とどう接したらいいのか分からないようなこと言ってたし、二人の溝……というほどではないけど、馬が合わないのは本編の最初の頃に指摘されていた事実であって、ここに来てようやく少し関係が縮まったのは感慨深い。から、よかったなあ。マリオが自分の心情をフリウに思わず吐露してしまう場面とかも、秋田作品にしては珍しくストレート。フリウを抱いてマリオが飛び回るシーンとかニヤニヤが収まりませんでした。思わず猿ぐつわかまされて椅子に縛られたマデューに見せつけるようにフリウとマリオがいちゃつく同人誌のアップロードを希望したくなる。いや、サリオンとってのもありかなあ。


今回も変わらず苦労が絶えないサリオンにはマジクより優先して見合い話を持ってってやってほしいと思った。本編で上司が持ってきた見合い話断ってたけど。女の子と二人きりになるのが苦手みたいなことも言ってたけど、あれって結局フリウに気を遣っただけだったのかな。


精霊捕獲戦では、フリウがわりとウルトプライドをあぶなげなく(本編に比べれば)使いこなしている気がした。フリウがあっち向いたりこっち向いたりする度に出たり消えたりする破壊精霊は、意外と可愛いのかもしれない。


アイゼンとラズのコンビは今回登場しなかったけど、アマンダの酒場に集まるハンターたちのエピソードとか面白いので、また機会があれば読みたいな。

エンジェル・ハウリング スィリーズ・アワー


精霊の故郷・硝化の森でスィリーが仲間たちとぺらぺらぺらぺら。やおいの見本のような話。感想書きようがない。

リングのカタマリ


八王子プロレス小説。「遺恨完了!ファイトだ!」で力を発揮するとことろとか、哀しみによって変身する「エスパーマン」と似た雰囲気を感じる。これを読んで初めて八王子の市鳥が大瑠璃だということを知りました。ザ・スニーカーに読み切りとして掲載された時の感想はこちら

パノのもっとみに冒険


きゆづきさとこのコミックのノベライズ。今はなきドラマガ増刊ファンタジアバトルロイヤルに掲載されていた。「空を飛んでいく変なものがあったのでそれを追いかけるけど追いつかない話」「星欲しい」「迷子の魔女」が掲載分で、「ヘンテコの呪文 」が書き下ろし。


基本はほんわかファンタジーだけど、短い中にはっとするような発想が含まれていた。山椒は小粒でピリリと辛い、という言葉がよく似合う作風は、後の「機械の仮病」「誰しもそうだけど、俺たちは就職しないとならない」にも受け継がれているかも。2話は星と人の関係を描いていて、『カナスピカ』のパイロット版っぽい。


内容とは関係ないけど、雑誌掲載時のイラスト全収録(原作漫画は除く、新規イラストはなし)は、もっと全面に出すべきだったと思う。草河センセ:表紙+ピンナップのカラー描き下ろし2枚 椎名センセ:表紙+ピンナップのカラー描き下ろし2枚  きゆづきセンセ:表紙+ピンナップのカラー2枚 モノクロ21枚 計23枚全て再録。圧倒的じゃないかきゆづきは!雑誌掲載時から絵本っぽい作りだったんで、新作の4話目にイラストが書き下ろされてないのは残念だったけど。

読了


して。面白くないわけがないので面白かったけど、「オーフェン」の新設定の大盤振る舞いにもう秋田はしばらくこれらを書くつもりないんだあというのが伝わってきた。まあでも、近年の新作でも『誰しもそうだけど俺たちは就職しないとならない』とか『機械の仮病』とか面白いので、これからも書かれるであろう新作に優先してまで続きを書いてほしいという気持ちは、多分他の人ほど強くはない。来年春〜初夏予定の書き下ろし3冊が楽しみだ。