魔術士オーフェンはぐれ旅 我が聖域に開け扉/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫


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壊滅した最接近領を脱出したオーフェンたちは、聖域へと向かう。その途中で遭遇したのは、十三使徒レッドドラゴンの戦闘だった。生き残った十三使徒に、今聖域で起こっていることを告げられたオーフェンの決断は―――。


最終巻。それまでの混迷の展開から脱し、ぐいぐい話が進んだ上巻から期待されたものの、下巻ではせっかく集合した人気キャラもいまいち活躍しきれず、駆け足で、爽快感に欠けた。……というのが刊行時に大勢を占めた意見で、自分も恥ずかしながらそう思っていた。が、今読み返してみると、言葉の洪水をわっと浴びせかけるように次々に明かされる真実に惑わされず、自分の求める正解まで一直線にひた走るオーフェンの姿には、それはそれでカタルシスを感じた。


オーフェンの下した決断が正しかったのかどうかは、いまだに判断できない。始祖魔術士たちはオーフェンのことを狂っていると評したし、無防備マン大絶賛なんて揶揄する人もいる。作者の意図がそこにあったかは別として、キエサルヒマの住民のほとんども、多分同じ気持ちだろう。そして何よりも、超人が世界を救うという思想を否定するために、超人の力を以って事に当たるというのは、矛盾してはいないだろうか。現にオーフェンは20年経過しても、魔王の力のもたらす葛藤に苛まれてるじゃないか。


だがそれでもオーフェンが、オーフェンという魔術士を主人公としたこの物語がああいった結末に至ることは必然だったんだろう。たとえその後、普通の魔術士とは比べ物にならないほどの力と一生をかけて付き合っていくことになったとしても。それはつまり思想に殉じたというなんだけれど、オーフェンはそのような言い方は否定するだろう。また否定したいがために、新大陸で魔術学校の校長なんていう柄にもないことをやってるんだろうな。

  • チャイルドマンと同格かあるいはそれ以上とオーフェンが自負する構成がどういったものか具体的にイメージできない。
  • マリア教師の表情、いつもの草河イラストとは作風変えてきてるけど美人度高いなー。
  • 「むしろ彼自身こそが、ひたすらにマジクを格下と侮って扱っていたのだろう」素養は認めていたけど、技術や精神面ではやっぱりまだまだだと思ってたんだろうなー。そのわりにちゃんと指導しないから……
  • オーフェンが「人が変わったように強くなった」ことにより、それまで絶対的な存在だったドラゴン種族、特にレッドドラゴン種族が弱く見えるという事態に。獣化魔術っていうものにそもそも暗黒魔術や精霊魔術ほどの圧倒感はなかったのが敗因かしらん。あと、なまじ人間の姿をとってて苦悩や葛藤が描かれるから存在感が……。
  • 王都の魔人プルートーがようやく登場。戦闘能力はそれほどでもないけど、人格者たるところを見せる。時間をかけた積み重ねがないから説得力はあんまりないけど……
  • 白魔術つーかネットワークの限界ってわりとお話の都合で変わってるように思う。
  • 「お、王都の二大怪人が飛んだ……」ここと、あとはコルゴンとハーティアの一連のやり取りが重苦しい展開の清涼剤。あと、月に一度、一晩大勢で殴り合って夜が明けたら一人増えてるという地人の生殖方法。
  • ジャックの素顔がなんというかその……。実質的にオーフェンのラストバトルの敵だっただけに、るろ剣の外印さん以上の衝撃。
  • 司祭の人たちの苦悩っていまいちピンと来なかったんだけど、「魔剣」冒頭のロッテーシャによるビードゥーの回想読んでからだとすごい身に染みた。清らかな故郷の外に出ること、罪を背負うこと、主を捨てること……。
  • オーフェン銃口を向けるクリーオウ。コルゴンに銃口を向けるロッテーシャ。
  • 「見ないで……」⇒「見ないで……」⇒「見ていて、キリランシェロ」「戦ってみせるから、見ていて」こういう少しずつ意味をずらした言葉を反復していくのは、オーフェンというか秋田の十八番のひとつだったな。

東部編というか最終巻時点での各キャラの状況

  • オーフェン:姉の行方を捜す内、最接近領の領主に目をつけられ、戦いに身を投じることに。結界の縮小でも魔王の力による女神の撃退でもない第三の選択肢を模索し続けた。
  • クリーオウとレキ:聖域の命を受けたディープドラゴンから一行を救うため、レキはクリーオウと精神を完全に同一化させることで群から自我を離す。それを解く唯一の方法は、どちらかが死ぬこと。レキは女神との戦いに死地を求めるが、クリーオウはそれを止めるために自殺するつもりでコルゴンに銃を向ける。が、オーフェンとマジクに制止された。
  • マジク:完璧な魔術を身につけても通用しない相手がいることを知り、また魔術士として目指す理想像が違ったため、オーフェンから卒業。イザベラに師事。最後の最後で活躍を見せる。
  • コルゴン:最接近領を裏切り、聖域を裏切り、自らが魔王となって女神を撃退しようとしたが、ロッテに阻止される。
  • ロッテーシャ:聖域で第二世界図塔制御のために作り上げた人造人間だが、その記憶を失っていた。自分を殺しかけた元夫のコルゴンに復讐の機会を図っていたが、聖域でそれを果たす。その後、魔王召喚で力を使い果たし、消滅した。
  • アザリーとティッシ:結界の外で死んだオーリオウルの遺言を伝えに、アザリーは大陸に帰還。絶望をなくすことではなく絶望から解放されることを望んで、コルゴンではなくオーフェンに魔王の力を託す。ティッシは精神体である彼女をサポートするため、戦線に参加。アザリーはロッテと同じように消滅。
  • フォルテ:ティッシを最接近領に送り出した後、ダミアンの襲撃を受け、意識不明に。
  • ハーティアオーフェンとコルゴンが相容れず争いになることを予想したアザリーが聖域に呼び寄せ、また自らその任に当たることを決意した。
  • 最接近領(アルマゲスト、ダミアンら):貴族連盟が聖域に対抗するために作った組織。領主のアルマゲストは、白魔術士のダミアンが作り上げた人造人間で、未来を予知することができる。無用な犠牲を出したくなかったため、少数精鋭で活動していた。魔王の力で女神を撃退しようとしていた。最終的にダミアンはアザリーに力を吸われ、領主は魔王召喚に力を使い果たすことで消滅。
  • 十三使徒プルートー、マリア・フウォンら):不審な動きを見せる最接近領とは対立していた。「扉」では結界を縮小しようとする聖域を制圧した。
  • 始祖魔術士たち:女神が来襲して全質量降臨の危機に陥るのを防ぐため、アイルマンカー結界を彼らのいる玄室を覆う最小限にまで縮めようとした。
  • 聖域の司祭たちとドッペルイクス:聖域で昔天人たちに使えていた使用人の子孫。人間種族。玄室に閉じこもる始祖魔術士たちに交渉して、結界縮小の範囲を聖域全体にまで広げてもらおうとした。そのため、ドッペルイクスたちに玄室の扉を破壊することのできる天人の武器を探させていた。