ライトノベルの「古典」/幻の単行本未収録作品に光を

twitterで、ライトノベル老害が古典を押しつけてこないから偉い、みたいな話があった。それに対する反応としては、そもそもみんな短期間で卒業しちゃうのでそういったおっさんがいない、というものが個人的にはしっくり来た(まあ最盛期を過ぎた作家のスレで「最近のラノベは○○ばっかりなんだろ?俺たちの××は違う!だから売れないんだ!最近のラノベ読んでないけど!」とか言っちゃう悲しい人はたくさんいるけど……そういうことがない、とは言わないけど言ってて空しくならないんだろうか)(あなたが今も好きな、あるいは昔好きだった作品・作家の中には、今もあの頃の面影を残しつつ「最近のラノベ」の一翼を担ってる人もたくさんいるんだけどなー。買ってない人はそういう人を買い支えてあげたら?とか)。流行り廃りが激しいから、「スレイヤーズ」や「オーフェン」を今読んで、それを現在の読書活動とどのように繋げられるかという問題もあるだろう。


入手難度については、彼のジャンルは消費も早いが、絶版になっても一部を除いてネット古本屋に大量に、手ごろな価格で在庫があるので、そんなに高くはない(古本屋に大量に在庫があるから絶版が早まるのかもしれないけど、そこら辺の因果関係はとりあえずおいとく)。e-bookoff、ブックオフオンライン、amazonマケプレヤフオク……。あと、意外に公共図書館は古い作品が残ってる。実際、自分も一時期は20年以上前の作品を漁っていたが、特に苦労したことはなかった。


だから、ラノベの歴史やジャンルそのものに言及したいなら、有名どころは読んどいてほしいなとは思う。特に自分の視界に入る作品だけ見て「ラノベには○○が足りない」と断言しちゃうような人には。それが最近の風潮に対して物申したいというだけならまだしも、「○○なラノベを読みたい」と望んでの発言なら、なおさら。一昔前のを漁れば色々出てくるんだからさ。それ以外の人は……読んでください!(byシャクティ くらいで。ただし年寄りが若者に「古典を読め」というのがアリなら、若者が年寄りに「最近のも読め」というのも十分アリだということも忘れちゃ駄目よ>自分 そもそも新しい作品を読む気がないなら、それらをよく知りもせず批判とかしないで、愚直に昔のことだけを語って後続の礎になるという生き方もアリなわけだし。後続の礎になるにも新しい作品を知っといたほうが色々接続しやすいのは確かだろうけどさ。


ライトノベル☆めった斬り!

ライトノベル☆めった斬り!


ところで、古いものでも入手はそれほど困難ではないと書いたが、それはあくまで単行本として刊行されている作品のことだ。漫画に比べると雑誌掲載というものを重視していないため数はそれほど多くないが、雑誌に何回か掲載されてそれっきり、という場合、入手難度は格段に上がる。基本的に国内で刊行された商業出版物なら何でも揃う国会図書館にはお世話になっているが、その都度足を運ぶというのも面倒だ。


情報ネットワークが整備された分目に見える欲しいものが増えて、でも実際に入手するには手間暇がかかる。そんなことで悩んでいたら、角川の電子書籍サイトBOOK WALKERでこんなものを見つけた。電子書籍限定の未収録短編集!そうそうこういうサービスを待ってたんだよ!


ということで以下は電子書籍……じゃなくてもいいけど、日の目を見てほしい単行本未収録作品。実現可能かどうかは考慮してません。

石川博品「平家さんって幽霊じゃね?」

FBonline掲載。イラスト:nauribon。擬古文体口調の平家さんがキャラ立ちまくり作者が高等教育で学んだものを創作に活かしまくり。前後編の後編公開から1週間でサイトから削除されて俺涙目。他に「ネルリ」も未収録短編が。

ろくごまるに「犬とサンダルと銃」

まるごと一冊冒険企画局掲載。イラスト:落合なごみ。TRPG「ご近所メルヒェンRPG ピーカーブー」のノベライズ。基本的にいつもの知能バトル。掲載誌は書籍扱いの雑誌だったので、まだamazonから購入可能(asin:4775308564

清野静時載りリンネ! 日常絵巻」

ザ・スニーカー連載。イラスト:古夏からす。ざっくり言ってしまうと児童文学テイストの魔法少女もの?「時載りリンネ!」の、カラーイラストに小説がついた、絵本のような体裁の短編。この手の形式って雑誌では結構あるけど、どうしても単行本化がネックになるんだよなあ。まあ本作に関しては「日常絵巻」の前に本編が2年半止まってるんで、そっちをなんとかしてほしいんだけど……。元々刊行ペースがそんなに早いわけじゃなかったので、気長に待ちます。

神坂一「蹂躙者たちの街」

NovelJapan掲載。イラスト:椋本夏夜。現時点で、神坂一の角川・富士見以外での唯一のお仕事。確かHJの最初のころの編集に富士見出身の人がいたはずなので、そのつながりかなーと。内容は、近未来エログロ伝奇復讐劇。神坂一のシリアス色が濃い作品としては「スレイヤーズ」第2部とか「闇の運命を背負う者」とかちょこちょこあるけど、こういうのまたやってほしいな。

米澤穂信「11人のサト」

まんたんブロード連載。イラスト:TAGROショートショート毎日新聞社が発行するアニメ・漫画・ゲームの無料情報誌という特殊な媒体で語られた物語とは……未読なのでよく知りません。

内藤渉「星のファム・ファタール

ファンタジアバトルロイヤル不定期掲載。イラスト:剣康之→ひの拓。第9回ファンタジア長編小説大賞佳作を「カレイドスコープの少女」で受賞した作家によるラブコメファンタジー不定期に掲載されていたんだけど、掲載雑誌の休刊と同時に音沙汰なしに。

秋田禎信「パノのもっとみに冒険」

ファンタジアバトルロイヤル連載。イラストのきゆづきさとこ原作、魔女の卵であるパノを主人公にした児童文学タッチのほっこりファンタジーのノベライズ。現時点で富士見書房における秋田の最後の仕事であり、新境地。『秋田禎信BOX』には掲載されてるんだけど、あれは完全限定生産だったので……。オーフェン新装版も電子書籍配信が開始したし、この機にいかが。秋田の未収録作品としては他に「籠の中の15分」なども。

麻生俊平「全日本美少女紀行めもりあるロマンス」

ドラゴンマガジン連載。イラスト:若月神無。それまでどちらかというとシリアスな作品ばかり書いてきた実力派作家が挑んだ、ギャルゲー風ラブコメ。タイトル通り、主人公が日本各地を旅してヒロインと出会っていくという「セングラ」を髣髴とさせる作品だけれど、そこは麻生俊平、各都市の特徴とヒロインの個性をベタながらうまく組み合わせ、心理描写も丁寧にし、意外と手堅い感じに仕上がっていた。またイラストにうめつゆきのりを迎えエロを重視してみた「薔薇の復讐」なんてのも。

榊一郎「ドラゴンズ・ウィルNEXT」

ファンタジアバトルロイヤル掲載。イラスト:田沼雄一郎榊一郎のデビュー作「ドラゴンズ・ウィル」の続編というか次世代編だったような。掲載時に読んだきりなので、一発ネタだったのか続きものだったのか覚えていない。

星野亮「がらくた星の物語」

ドラゴンマガジン掲載。読者による人気投票企画である「龍皇杯」参加作品。イラストに「キノ」を手がける前の黒星紅白を起用したファンタジックなSF。寓話めいた内容もどことなく「キノ」と似通っているところがあった。

上遠野浩平「竹泡対談」

電撃hp電撃文庫magazine不定期掲載。イラスト:緒方剛志。本作に関しては現在も不定期に発表され続けている。「ブギーポップ」シリーズの登場人物である竹田くんとブギーポップが、学校の屋上でさまざまなテーマについて語り合う。ある意味ブギーポップ本編よりもブギーポップらしい作品。作者は多方面で活躍しているだけあって未収録作品も数多いが、その内講談社メフィストファウスト系列で発表されていた戦車嫁シリーズ?は「戦車のような彼女たち」として単行本化が決定した模様(収録作品は明らかになっていない)。

夢枕獏「キマイラ神話変 序曲」

掲載:天野喜孝画集「魔天」/短編集「半獣神」。イラスト:天野喜孝。30年を経て今なお続く伝奇格闘青春小説の、ラストを幻視したかのような短編。だが、今となっては実際に終盤の展開がこの短編通りになるかはきわめて疑問。

あとは


中村恵里加ダブルブリッド」「ぐらシャチ」、野村美月文学少女」、ヤマグチノボル「描きかけのラブレター」、大西科学「ジョン平とぼくと」「晴れた空にくじら」、佐藤竜雄機動戦艦ナデシコ」、秋口ぎぐる「並列バイオ」「粛清プラトニック」、高野和七姫物語」、川崎康弘「双角小隊」、小林めぐみ「必殺お捜し人」「サニーサイドアップガール」、吉村夜「魔魚戦記」などにも未収録作品が。


それぞれの掲載号はめんどいので各自でぐぐってみてください。この辺りも参考に。


調べてみて結構多かったのが、シリーズ完結に合わせ雑誌に短編掲載してそれっきり、というパターン。漫画だと「るろうに剣心」の「弥彦の逆刃刀」とかも最近完全版に収録されるまで長かった。雑誌でしか読めないものがあってもいい、という思想には同意しないでもないけど、でも、一読者の我侭としてはやっぱり単行本でまとめてくれたほうがありがたいねん。川崎康弘「銃と魔法1.5」やMF文庫Jの作家が終結した合同同人誌「みみっく!」といった非商業作品は、また別の話かな。それと最近増えてきたのが店舗購入特典やアニメのビデオグラム特典に原作の書き下ろし小説がつく、というパターン。これについてはまた後日……。