時の流れに埋もれし偉大なる汝の名において- 『スレイヤーズ』の辿った軌跡-

第一回ファンタジア長編小説大賞の光と影

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スレイヤーズ』の神坂一と同じく第1回ファンタジア長編小説大賞<準入選>を受賞しデビューしたものの、以降全く音沙汰がない『リュカオーン』の縄手秀幸。当時から両者は「"軽"の『スレイヤーズ』、"重"の『リュカオーン』」と比較されていた。『リュカオーン』は、『スレイヤーズ』とファンタジア文庫を語る上で避けては通れない作品だと思う。


スレイヤーズ リュカオーン
イラスト あらいずみるい 天野喜孝
発売日 90年1月 90年7月
雑誌掲載 あり なし
煽り とんでもねー美少女の呪文が炸裂する痛快ユーモア・ファンタジー 幻想の未来を重厚な語り口で構築するSFファンタジー


結論から言うなら……そして後世の歴史家(by田中芳樹)視点から見るなら、縄手秀幸が1作で消え、神坂一が業界を代表する作家となったのは、残念ながら必然だったのかな、と思う。


リンク先ではイラストレーターの選定に編集部の期待度の違いを見ている。確かに天野喜孝は当時既に人気イラストレーターだったけど、逆に言うと『グイン・サーガ』『吸血鬼ハンターD』『キマイラ・吼』等、手垢がつきまくっていたってことだ。また、『スレイヤーズ』の方は文庫発売に先行して雑誌に短編が掲載されていることも大きい。これは多分、『スレイヤーズ』の面白さがキャラクターの個性の強さにあり、そこさえ押さえれば比較的続編を作りやすい、と編集部が踏んでいたからではないか。実際、『スレイヤーズ!』の解説では、ドラマガに今後も折りを見て短編を掲載していくこと、人気次第でこの作品をシリーズ化させる意図があることが既に述べられている。『リュカオーン』が、水晶髑髏、フィラデルフィア実験、事象の地平線、赤方偏移面といった単語が飛び交うオカルトSFであったことも忘れちゃいけない。言うまでもなく、ファンタジア文庫の主流は今も昔もライトファンタジーだ。


……当時の編集部及び選考委員の人に、レーベルの方向性に対する明確なビジョンがあったのかは定かではない。ないけど、ここまで材料が揃っていると、なんだか、単なる皮肉以上のものを感じてしまうのは自分だけではないはずだ。


つーかあれだ、ここまで書いてきて思ったけど、小説としての完成度の高さを評価されてデビューしたけど寡作、もしくは後が続かなかった、って準入選ってより大賞受賞者の系譜よね。あと、神坂一が光で縄手秀幸が影なら、冴木忍はなんだろう、とか。

TENCAを取ろう!-リナの野望-

ドラマガ20周年記念冊子を主な参考に、ドラマガ誌上での扱いとか。『スレイヤーズ』がどこで圧倒的に勝ち組になったのか検証のための踏み台。


まず、連載に至るまでに8回の読み切りが掲載されているということ。そして、短編集の第1巻の発売、読者人気投票での高順位、初表紙&巻頭カラー。全てが本格連載開始前の出来事だったとすれば、なるほど、鬼子、とまではいかないけれど編集部にとっても結構予想外の人気だったのではないか、と想像してもいいと思う。そんな状態も91年7月号の表紙&巻頭カラーで終わり、連載開始以降は半年に1回は表紙&巻頭カラーが組まれる名実ともに看板となり、95年のアニメ化でそれは爆発する。

  • 魔術士オーフェン
    • 92年8月:著者デビュー作『ひとつ火の粉の雪の中』
    • 94年5月:長編第1巻『我が呼び声に応えよ獣』。
    • 94年9月号:短編編第1作「てめぇら、とっとと金返せ!」掲載
    • 95年1月号:初特集&短編第2作「とにかく一回死んでこい!」掲載
    • 95年4月号:連載開始、コギー登場
    • 96年1月号:初表紙&巻頭カラー特集
    • 96年2月:短編集第1巻『てめぇら、とっとと金返せ!』。
    • 98年4月:『我が夢に沈め楽園』で長編第2部開始
    • 98年8月号:TVアニメ化発表(??)
  • フルメタルパニック
    • 94年12月:著者デビュー作「弁天女子寮攻防戦」(「蓬莱学園」同名タイトルアンソロジー収録)
    • 98年7月号:連載開始&初特集
    • 98年9月:長編第1巻『戦うボーイ・ミーツ・ガール』発売。
    • 98年12月:短編集第1巻『放っておけない一匹狼?』発売。
    • 99年6月号:初表紙&巻頭カラー特集
    • 01年7月号:TVアニメ化発表


比較のため、ファンタジア文庫のトップ3を並べてみた。こうして見ると、富士見お得意の書き下ろし連載連動システムが完成していき、アニメ化までにかかった時間がどんどん短くなっていっているのがわかる。『スレイヤーズ』は初出から連載開始まで2年、アニメ化までは5年。『オーフェン』は連載開始まで1年、アニメ化まで4年、『フルメタ』に至っては長編より先に連載開始し、3年後にはアニメ化までこぎつけている。


スレイヤーズ』のアニメ化まで5年というのは、3年周期で読者が変わると言われる現在の視点から見れば遅すぎる気もするけど、当時はそれだけアニメ化までのハードルが高く、この種の小説の消費期間も長かったのだろう。


あと、大体『スレイヤーズ』がアニメ化する頃に『オーフェン』が登場して、『オーフェン』がアニメ化する頃に『フルメタ』が登場してるのね。

ファンタジア文庫及び行く末に与えた影響

あとはこれか。長編短篇連動システムを定着させたってのはまあいいとして、富士見が『スレイヤーズ』的なものに縛られていったという人がよくいるけど、それって結局のところ何なのか、もし本当にそういうものがあるとしたら、いつ頃から影響を及ぼすようになったのか、今でもそれは続いているのか、とか。……正直、自分の手にはちょいと余るかなあ。


秋田は学生時代スレイヤーズを読んでいたらしいので、ある意味ファンタジア大賞は第3回の時点で既にスレイヤーズ世代の影響が……とは、まあ流石にあの受賞作では言えず。強いて挙げるなら、93年に『風の大陸』を除いて創刊号からのラインナップが消えて、同年に『ヤマモトヨーコ』、94年に『オーフェン』、95年に『封仙』、96年に『はみだしバスターズ』、97年に『リアルバウト』が開始……重要なのはこの辺か?『オーフェン』『リアルバウト』『封仙』辺りは、みんな受賞作の傾向とは全く別のものを書いて売れたってのがポイント。あとは、『必殺お捜し人』とか『リウイ』とか?


ちなみに、神代創は『スレイヤーズ』は読んでない、らしい。『ゴクドーくん』の絵でSF風味の『スレイヤーズ』、というのが当時の自分の抱いた感想だったんだけど……今読めばまた違うのかな。

作品単体の評価としては

http://openfire.seesaa.net/article/62437046.html


ここの感想が面白かった。『スレイヤーズ』シリーズ本編全15巻を始め、神坂一作品を誇張も衒いもなく、ライトノベルの歴史云々とも絡めず一つの作品として語った感想群。


世界設定の解説のうまさ。リナを始め人間側の無闇なインフレを避けていること。至極真っ当な人間の善悪についての話。すぐスキャンダラスな話題に走ってしまう自分には、こういうところが足りてないんだな、と思った。