魔術士オーフェンはぐれ旅 原大陸開戦/秋田禎信/TOブックス


秋田禎信BOX』で発表された「終端」「約束の地で」に続く完全新作第一弾。ティッシとフォルテの息子であるマヨールは、ヴァンパイアの力を求める妹ベイジットを追い、3年ぶりに原大陸を訪れる。巻末には今年4月に配布された無料小冊子第一弾初出の短編「魔術戦士の師弟」を収録。


「約束の地で」での敵の強大化と魔術のインフレから想像していた以上のド派手な展開だった。ラストの人化寸前だったシマス(それまで象徴的な存在に過ぎなかったまさか唯一の真なるドラゴンがあそこで出てくるとは!しかも前巻ではさして重要キャラでもなかったシマスから!)に挑むオーフェンは怪獣映画みたいだし、空をびゅんびゅん飛びながら光熱波を撃ちまくるマジクはドラゴンボールのよう。そんな師匠に呆れた眼差しを送るラッツベインはエッジとのネットワークを利用した合体技で初陣にして大金星を上げちゃうし。あれは最終的に魔王三姉妹の三位一体攻撃!(エドおじさんは死ぬ)的なことにやっぱりなるのかな。魔王術は一撃必殺技的な何かだと思ってたけど、わりと汎用性あるのね。一応代償が必要ということだけど、マジクのそれはトイレで吐いてたことと何か関係が?オーフェンは代償がないことが代償?ていうかボリーさん、キエサルヒマの魔術士にも代償があることくらい教えておいてくださいよ。


マヨの婚約者であるイシリーンは、秋田作品ではついぞ見かけなかった今時の女子大生って感じ。某所で人気つか評価が高いのは分かるけど自分は気圧されそうで苦手だなーとか距離感間違えてひどいことになりそうだなーとか男を立てる時には立てるけど自分も女性として相応の扱いをあっけらかんと要求してくる辺りがいいよなーとか男前だよなーとか俺に必要なのはああいう子な気がするなーとかキモいことを考えた。今まで秋田キャラでそういう方向に妄想がいかなかったんだけどな。カップルとしては彼氏のほうが先に就活始めたのに後から始めた彼女の方がさっさと内定とって彼氏を凹ませそう。「約束の地で」の時点ではまだ付き合ってなかったのかな?二人の馴れ初めとか読みたい。「ベッドの通路側はあなたが寝てよ」とかさりげない発言にニヤニヤ。チェーンウィップとか薔薇の手錠とかおおよそ訓練などしたこともなさそうな武器を使いたがった辺りに妄想が広がる。……しかし、これだけキャラクターが完成されてると、この先が怖いなあ。


今回の話の軸となっているベイジットに関しては秋田にしてはくどいくらいに紙数割いてるんだけど、まだ読みきれてない。あそこまで同情を誘うような書き方をされると何か読み違えているんじゃないかと思えてくる。ティッシは子育ての本「たのしいわがや」を買ってきたり色々勉強したんだろうけど、なあ……。それでフォルテが家に近づきたくなくなったとか、あのムッツリめ。ベイジット的には父親は母親や兄よりマシだということだから、接する機会が多ければまた違った未来もあったかもしれないのに。マヨに「結婚」をすすめたのはその辺の後悔もあったのかなー。


今年春のインタビューで、秋田は新シリーズの主人公は一応オーフェンであると明言した。だが、この巻を読むとオーフェンは責任ある大人として組織や政治、あるいは家族といったものにがんじがらめになり、必要とあらば汚いことにも手を染めなければならない状態になっている。だからこそ、比較的自由に動ける新世代のマヨールに一縷の望みを託したわけだが、一方で超人であることの孤独はますます強まっている。はたして「はぐれ旅」の主人公であるオーフェンの終着点はどこにあるのか。今はまだ見えない。


魔術士オーフェンはぐれ旅 解放者の戦場【初回限定版】

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各キャラについて

  • 「デカ尻の馬鹿」発言にエッジ意外とグラマー妄想が。
  • エッジのマジクの呼称がマジクおじさんから「アレ」に変化していった過程を想像するとにやける。
  • エッジはラチェに、マヨールはベイジットに「マヨネーズ」の悪戯をされたのはやっぱりそういうことなんだろうか。
  • マヨはティッシの透過の魔術を母親にしては過保護過ぎると評したけど、自分の体を平べったくする魔術を忌避しないマヨのほうが怖いよ。
  • 「俺はお前を―――」が「カミーユ!お前は俺の―――」とダブってマヨが死ぬのかと。
  • ベイジットが目撃した「マヨールが枕と毛布相手にやってた練習」は、秋田にしては直球の下ネタだなあ。
  • マジクはハーティアのところに馳せ参じる際、イザベラとかなりやりあったんだろうな。ああやりあったってそういう……/というか「上級生殺しのマジク」と呼ばれていた過去を加味すると「貴族殺しのマジク」っていうのは女性議員や議員の妻や娘をおとしまくっていたということなのでは……
  • トトカンタ防衛戦の前後で母親にもてほどきを受けたのかな。
  • シマス・ヴァンパイアの強度をミストドラゴン並みと喩えていたけれど、彼が彼のドラゴンに遭遇したのってまわり道のあの話だけだったはずで、ということはあれ一応公式の出来事なのか。
  • オーフェンはマジクに指揮権委譲してたけど、彼やエドは一兵士ではなく士官として役に立つのかしらん。一人遊撃隊みたいな印象が強いんだけどな。
  • エドおじさん47歳ってゆわれて思わずのけぞった。次世代のマヨールが既に22歳だしなあ。……あれ?ロッテ17歳:エド23歳→シスタさん=ラングンブレード可愛い=29歳:エドおじさん47歳ってむしろ年齢差が広がってる?
  • エドおじさんの部屋に鉢植えが置いてあって泣いた。
  • オーフェンはやっぱり今でも教職は不得手だと思ってるのね。
  • 東部編以降、オーフェンの主張って基本的に作品の主張と一致してるんだけど、「扉」でしたことへのイザベラの言い分のようなものは大事にしたいなーと思う。
  • 返済とか借金とかいった単語をオーフェンの後ろで囁いてるのはやっぱりボルカンなのかしら。
  • 拷問シーンは寸打よりも顔面をかかとで踏み抜くほうがテンション上がったデス。これでミッツォたんはイチコロってわけさ。スゲエ!
  • 「クプファニッケル」って緊急時に舌噛みそうな呼称。
  • 魔術=既存の黒魔術で術=魔王術なのね。
  • オーフェン評によるとカーロッタは普通に信仰が篤いのね。旧シリーズでのクオらとの対比から、キムラックの組織を自分の利益のために利用してるだけだと思ってた。
  • ラッツベインは引っ込み思案、なんだろうか……確かに妹二人に比べれば、そうかな?
  • ティッシの尻に悪魔的な出来物があるなんて知ったらあのコミクロン、黙っていませんね……
  • クリーオウは今回ようやくオーフェンの嫁として本文中に名前が登場。であるからにはベイジットの願いも虚しく、本筋に関わっていくんだろうな。某所で言われてた彼女がカーロッタをかくまってるんじゃないかっていうのもあながち……。
  • ラチェが使った吹き矢の毒はフェルテ・ベルナールかお仕置き水か。
  • イザベラにレズっ気があるっていうのはイールギットの家名を受け継いだことが妙な噂になってるんだろうな。
  • ラチェのCVは伊瀬茉莉也で、とtwitterで書いたら同じこと考えてる人がいてびっくり。何も考えず自分の好みのところを挙げただけだったんだけど……。

設定など

  • メモ:熱衝撃波は大気減衰の影響を受ける。ただし声の届く範囲ならその限りでない。実は以前から気になってたんですよね。
  • ワニの杖は擬似空間転移専用か。あの世界の魔術士は硬いもの見たらすぐそれだ。オーフェンが日曜大工趣味を駆使して複製(?)した天人の遺産もそれくらいの使い道しかなさそうだな。そういえばあの中にエドゲイン君っぽいのもありましたね。
  • 今まで強力な魔術士の家系ってケットシー一族くらいだったのに、フィンランディ家もマクレディ家も理不尽なくらい血が濃いよなあ。
  • 「お前にはなにもない。さしあたっては慈悲がない!」は流行る。シャンク世界辺りで。
  • 印刷機の輪転の話は秋田の実体験なんだろうか。

作品外のこと

  • 小冊子のコメント、草河先生、相変わらず鋭いこと言ってる。ラフスケッチはどれもかっこいい。オーフェンとクリーオウの距離、交錯しない視線、エドさんとの3人配置。ちゃんとした形で見たいなあ。
  • 「マジク辺りにしか見せない顔」とかきゃーって感じですよね。実際はマジクにも見せない顔がありそうだけど。チャイルドマンっぽいと言われれば確かにそうかな。旧シリーズの皮ジャンにバンダナなどのデザインに関しては自分は固定観念ガチガチの人間なので、当時ファンタジーの知識がないのが逆によかった」というのは、ソードワールドRPGのイラストなんかもやってたし、まあ。
  • 「扉」ラストのクリちゃんのイラストに関しては草河先生も気にかかってたのね。
  • 「獣」が1巻読みきりで続刊の予定がなかったのがマジクのデザインを適当にさせていたとは……。まあ、それもマジクらしいか。
  • 新装版にしても秋田は一度出版したものは基本大幅な加筆修正はしないけど、それと手直ししたくならないのかどうかっていうのは、やっぱり別物なのね。
  • 求められるお約束が分かってると楽、とはいうけど、初期はそれほどファンサービスには熱心なほうではなかった気がする。今でもあくまで譲れない線は引いてるけど、その辺り、変わったなあ。
  • やっぱり新人は原稿を積極的に見せに行かにゃ駄目なんだなあ。
  • 「獣」執筆開始当初はシリーズ化の構想はなかったと言ってたけど、「獣」が出版されるまでには「機械」も書きあがってたのね。「機械」時点でも構想がなかったというのはちょっと信じ難いけど……
  • カバー→特大帯→アニメイト特典カバー→アニメイト謹製透明カバー どんだけ厳重やねん/とか言ってたら特典カバーの折り目ミスった。帰宅途中に折り目がつかないように袋に入れてくれた店員さんの厚意を無駄にしてしまった……
  • 帯の裏見たら「第四部始動」というあおりが。出版社公式にもそっち採用なのね。
  • amazonの順位とか見てたらみんな限定版買うもんだと思ってたけど、意外に通常版も売れてるのか。まあ限定版置いてないところも多いだろうしなー。