魔術士オーフェン新シリーズ小冊子01/秋田禎信/TOブックス


新シリーズに先駆けて全国一部書店(なんかこの表現おかしいな……)にて無料配布された計30Pの小冊子。全ページ新作小説で、自分は嬉しいんだけど、旧シリーズのおさらいとかしなくていいんでしょうかこれ。「オーフェン」をちょろっとだけ齧ったことある人とかにはあんまり優しくない作りかも。「01」とついているので次号はその辺を……とか言ってたら、書店に問い合わせが殺到でもしたのか何かトラブルがあったらしく、次が出るのか分からない模様。テンバイヤーの人たちが活躍したのかと思ったけどヤフオクでもその兆候はないし、単に数量が少なかったのかな。公式に掲載されてる書店リストも1日でごっそり減ってるし。こっちとしても講談社の「IN☆POKECT」みたいに安価でもいいので普通に流通させてもらったほうがありがたいんだけどなー。そっちのほうがかえって面倒か。や、まあどうせこの冊子の短編は後で発売される単行本に収録されるんですが。


小説の内容は、はぐれ旅本編から約20年、秋田BOX「約束の地で」から3年後、フィンランディ家の長女ラッツベインとその師匠であるマジクが、開拓村で起こった事件の解決に出向く。タイトルはついてないけど、もしつけるなら「魔王の娘の師匠2」とかが無難かな。やー、しかし、いいコンビだねこの二人。というかいい歳の取り方したよねマジク。なんというか、基本昼行灯?(そういえば無謀編にそんな名前のキャラがいたな……)魔術戦士中、1、2を争う使い手なのに雰囲気のほうがついていかず、ラッツ……というかフィンランディ三姉妹には馬鹿にされっぱなし。弟子の自分を見る目を変えようとバトルで活躍して決めポーズまで見せても、そもそもラッツはマジクの魔術の腕は認めたうえで、それ以外のなんかこう生まれながらの序列的な意味で町内最弱と認識してるんだから手に負えないwまあ物心ついた頃から両親に頭が上がらない師匠の姿を見て育っちゃうとそうもなるわなー。

「ラチェなんて、もう師匠のこと『例のアレ』としか呼んでないんですよ。試しにアンケート取ってみたら、師匠の印象の一位は『壁の染みよりは濃い』だったそうです」

まあ確かに師匠はいかにも怪しげだ。人間としての覇気がない。糸の抜けたぬいぐるみか枯れ枝みたいだ。まだ四十にはなっていないのだが佇まいは既に六十歳。そんなものが風邪ひいたようなぼんやりした半目でふらふらと歩いているのだから、おおむねオバケである。もしくは万引きの常習犯だ。

母さんに犬の散歩を頼まれて、師匠は森で迷子になって犬だけ帰ってきたこともある。その時は母さんに「紐を持っておくこともできないの?」と呆れられていた。師匠はといえば、「いや……だって湖に潜られちゃ、いくらぼくでも……この犬、ぼくにだけ無茶するよね、なんでか」とかわけの分からない戯言をいうばかりだった。

「ホントに駄目な師匠なんですから!そーゆうことだからパンツの置き場所も知らないし、釣った魚キモーイ触れなーいとか言って逃がしちゃうし、マグカップ使った後に洗うってことを覚えないし―――」

マジクって第1、2部刊行当時はいまいち人気なかったけど、これはなかなかいい感じじゃないかしら。そしてクリーオウの血を受け継いでるだけあって、ここぞという時では聡いことを言ってマジクを引っ張っていくラッツベイン。カプ厨としての自分の血が「マジク×ラッツいいよね」「いい……」と騒ぐぜ。うだつのあがらない(ように弟子には見える)しょぼい師匠(40)と、そいつが思春期時代穏やかならぬ想いを抱いていた人の娘(20)で弟子!これは勝つる!


また、フィンランディ家の隣に住んでいて、ボールが飛び込んできたり屋根を根こそぎはがされたり、ラッツベインたちに迷惑かけられまくりのエドおじさんは、なんだか人間味が強くなっていた。クリーオウに苦情を言いにくる時、過去が過去だからなんとも言えない表情を浮かべているのも可愛い。オーフェンがチャイルドマンから習った体術を、エッジをひざかっくんしてからかうために使ってるとかもなんだかほのぼのさせられた。