富士見ミステリー文庫追悼の辞・レーベル編


(某氏とかぶっちゃったけど、まあせっかく書いたので……)


富士ミスが終わる。公式アナウンスは出ていない(最近では竹書房Z文庫もそうだったな。ソノラマは色々ニュースにもなったけど、アレはそもそも母体の出版社がなくなっちゃったから……。基本的にこういうのって公式発表はないものなのかしら)けど、『ROOM NO.1301』『SHI-NO』という二つの人気シリーズの完結をもって終了、というのが大筋の見方。約8年半で総刊行点数は315点。正直自分はあまりいい読者であるとは言い難かったのだけど、1年かそこらで即死したところを除けば、揺りかごから墓場までを見てきた最初のレーベルであり、感慨深いものがある。


創刊は2000年11月。西尾維新戯言シリーズ』や乙一『GOTH』以前のこと。第1回配本は深沢美潮『菜子の冒険』、南房秀久『ハード・デイズ・ナイツ』、舞阪洸『御手洗学園高等部実践ミステリ倶楽部』、イタバシマサヒロ『月が射す夏』、高山浩『Heaven's game』、夏緑『理央の科学捜査ファイル』、あざの耕平Dクラッカーズ』、田村純一』の8点。それまでファンタジア文庫等で執筆していた人をメインとしていて、既存のミステリ作家はいまいち影が薄かった。ラノベとしては当たり前の話なんだけど主人公の年齢が10代ということに拘っていて(ヤングミステリー大賞の応募要綱など)、対象読者的には講談社ノベルスとかあそこら辺よりは『コナン』『金田一』といった辺りを意識してたんじゃないかなあと思わなくもない。朝倉哲也の手になるスタイリッシュな装丁に惹かれた。


Dクラッカーズ〈1〉接触‐touch (富士見ファンタジア文庫)

Dクラッカーズ〈1〉接触‐touch (富士見ファンタジア文庫)


これは直接にこのレーベルの動向ではないけど、2001年11月、角川スニーカー文庫から派生した「スニーカー・ミステリ倶楽部」が創刊。一般的には米澤穂信を輩出したレーベルとして知られる。富士ミスとは正反対に既存の推理小説家によるアンソロジーを出したり、その筋の人たちにはわりと期待された「真面目」っぽいレーベルではあったけど、結局短命に終わった。


氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)


2002年1月、第1回富士見ヤングミステリー大賞受賞作『ブロークン・フィスト 戦う少女と残酷な少年』発売。初の大賞であるにも関わらず密室トリックがアレゲで、今に至るまでの語り草となっている。一部の人たちに初期富士ミスの「地雷」イメージを定着させた作品だけど、作者の深見真はいつの間にかなかなかの売れっ子に。他にもこのレーベルから羽ばたいていった作家は何人もいて、新人発掘能力は決して低くなかった、という評価も聞かれる。また秋田禎信『閉鎖のシステム』や小林めぐみ食卓にビールを』、上遠野浩平『しずるさん』シリーズなど、ベテラン/人気作家にブランドイメージが定着したファンタジアではやり辛いちょっと変わったことをさせるレーベルでもあった。ただ、それらの作品をうまく活用し切れなかったのかな、という印象は受ける。『GOSICK』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が評価されたものの、ライトノベルレーベル以外での仕事に比重を置くようになって刊行が滞った桜庭一樹などはその代表例だろう。



2003年4月、発売日を電撃文庫と同じく毎月10日とする。後に、書店側に「電撃文庫の隣に置いて下さい!」とお願いしていたことが判明し、話題となった。


2003年12月「LOVE寄せ」「スーパー・ブースト計画」と呼ばれるリニューアル計画が発動。表紙が裏表紙と地続きの全面イラストとなり、以前より更にミステリーが減った代わりに恋愛要素を必須とした。「富士ミスは、基本的に殺人禁止だから」「殺人許可証」の提示を求められるようになったのはこの辺り?ツッコミどころ満載のリニューアルだったが、その時点においては成功と言えたのかもしれない。翌2004年はレーベル継続中最多の52点が刊行され、『GOSICK』『ROOM NO.1301』等人気シリーズも好調。2006年12月にはリレー小説企画『ネコのおと』も発売され、我が世の春を謳歌した。



が、2007年に入るといきなり刊行点数が前年比5割減。新規作品の数は目に見えて減り、既存のシリーズは刊行が滞ったり完結したりファンタジア文庫に移籍したり。本格的に富士ミス終了の噂が流れるようになる。4月には富士ミス作品の短編を多く載せていた「ドラゴンマガジン増刊 ファンタジアバトルロイヤル」が休刊。2008年になっても縮小傾向は回復せず、2月にはヤングミステリー大賞も終了。この年、桜庭一樹直木賞を受賞し、富士ミス刊行作品にも「直木賞受賞」の帯が巻かれたり、実現すれば富士ミス発としては最初のアニメ化の噂が流れるも、肝心の新刊は出ず仕舞い。


GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)

GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)


そして今年、いよいよ終わりの時を迎えた。迎えたっぽい。だが、富士ミスが消えてもその遺伝子はリニューアル完了した新生ファンタジア文庫を始め、色んなところで生き続けるだろう。ありがとう富士ミス。さようなら富士ミス


ROOM NO.1301 #11  彼女はファンタスティック! (富士見ミステリー文庫)

ROOM NO.1301 #11 彼女はファンタスティック! (富士見ミステリー文庫)

SHI-NO-シノ-  君の笑顔 (富士見ミステリー文庫)

SHI-NO-シノ- 君の笑顔 (富士見ミステリー文庫)

日販ランキング入りタイトル

他のレーベルに移籍したタイトル

作家 タイトル 移籍先 備考
深沢美潮 菜子の冒険 猫は知っていたのかも。 講談社YA!Entertainment -
谷原秋桜子 アルバイター・美波の事件簿 創元推理文庫 -
葉山透 ルーク&レイリア 一迅社文庫アイリス -
桜庭一樹 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 富士見書房・角川文庫 -
桜庭一樹 GOSICK 角川文庫 -
木ノ歌詠 フォルマント・ブルー 一迅社文庫 -
大田忠司 レンテンローズ 幻狼ファンタジアノベルス -
壱乗寺かるた さよならトロイメライ ファンタジア文庫 続編?『放課後トロイメライ』のみ刊行
海冬レイジ 夜想譚グリモアリス ファンタジア文庫 続編?『幻想譚グリモアリス』のみ刊行
あざの耕平 Dクラッカーズ ファンタジア文庫 -