GOSICK Ⅶ、Ⅷ、sⅣ/桜庭一樹/角川文庫

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)


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2003年シリーズ開始。元々は富士見ミステリー文庫の数少ない人気作だったのだけど、作者の一般文芸の活躍にレーベルの休刊が重なって、2007年を最後に刊行途絶。今年、アニメ化に合わせて4年ぶりに再開。短編集も含め全4冊「薔薇色の人生」「冬のサクリファイス」「神々の黄昏 上下」を一挙に刊行し、無事に完結した。


筋書きは先行して(本来なら同時完結になるはずだったっぽいけど、完結編がギリギリで上下巻構成になったためズレこんだっぽい)最後までやったアニメとほぼ同じ。時系列的には、ある程度出来上がってた原作の完結巻に沿ってアニメが制作された、というほうが正しいんだろうけれど。ソヴュール最大の謎であるココ・ローズ事件を解決して、戦争が起こって、クリスマスにヴィクトリカと九条が離れ離れになって……。


GOSICK-ゴシック-BD版 第1巻 [Blu-ray]

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とはいえ、作者が刊行中断している最中に他作品で培った筆力でおおいに盛り上がっていて、やはり原作の最大の魅力はなんだかやたらふわふわしてたり戯曲風だったり、良くも悪くも地に足が着かない描写で、アニメにはそれがなかったんだよなーと実感した。セシル先生始めあれこんなキャラだっけ?というところもあったけど、まあ瑣末といえば瑣末なことかしらん。痛みに敏感なヴィクトリカ(多分、結局は情緒的に“子ども”だからだろう。似たような容姿でよく比較されるけど、精神的にも老成してる真紅とはそこが違うところ。恋愛に関してもそうだけど、久城もヴィクトリカも年齢以上に幼く描かれているように思える。そしてそれが魅力。アヴリルと会ってるヴィクトリカを「欲情してる」と評していたのを読んでびっくりした)が、九条との再会のために背中に住所を刻んだシーンでは、灰色狼の情深いなーと思った。また、それまで一度たりともその存在が明言されていなかったオカルト的な人たちがラスト間際になってぞろぞろ出てきて驚いた。それともあれは、あくまでそういうイメージだったのかな。


全体を振り返ってみると、なんだかんだでこのシリーズが推理小説であるのは間違いない。各巻の構成も、メタ的に言えば出版社の売り出し方もそうだ。ただ、いくら初心者向けであるにしても、作者自らトリックは簡単なもので、元ネタがあるというかお約束的なものばかりというようなところを言っていたところを見ると、謎解きが面白さの全てでもないとは思う。


自分にとってはこのシリーズの謎解きとは、新しいものが古いものを照らす光であり、オカルトを駆逐する科学であり、そして何より、子どもが大人に一矢報いるための手段だった。そういうところ、他の作品同様、桜庭一樹の作品だったんだなあと思う。最終巻でグレヴィールがドリルをやめて父親の扶養から脱し出征しようとする辺りとかモロ「砂糖菓子」の兄貴。



戦争が主人公たちにとって立ち向かうものでなく、一種の天災のようなもので、避けられない状況として描かれているのもらしいっちゃらしかった。エンタメであるとか、ライトノベルであるとか、編集者の内容への介入(本作のあとがきでは編集者である“BDK”と二人三脚で作ったこと、結果売れたことにやたら感謝していたけど)とか、そういうの関係なく漏れ出てきちゃうのが作家性とかいう奴なんじゃないかな。むしろより自由な執筆環境でしか発揮されない作家性なんてただの戦略ですよ。……ああ、戦略といえば、ミステリー文庫版のあとがきのあの妙なテンションは、時々ちょっとだけ苦手でした。


それと、言うまでもなく、武田日向のディティールに凝ったイラストも素晴らしかった。背景も描き込んで、尚且つキャラには華がある。ちょっと非の打ち所がないっすよね。角川文庫版の後を追う形で刊行されているビーンズ文庫版は氏の挿絵が収録されている。「薔薇色の人生」以降の新作カットが楽しみだ。


GOSICK‐ゴシック‐ (角川ビーンズ文庫)

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余録

  • 久城を膝の上に乗せてた人は何がしたかったんだろう。
  • ヴィクトリカ⇒久城は一目惚れっつーか、デレるの早かったなあ。
  • IKEMENが苦手な作者はドリルをドリルにしないとIKEMENを登場させられなかったのかしら。
  • 「金の話をするときだけ色気を発散する女」っていうのが印象深かった。
  • 九城のクラスでの孤立は結局最後まで解消されなかったな。ヴィクトリカはわりと九城以外との交流も描かれてるんだけど…….「冬のサクリファイス」を挙げるまでもなくあそこの生徒マジハリボテ。
  • アヴリルと同室の、クラスメイトのツインテお嬢様は人気出そうなモブキャラだったなあ。もうちょい掘り下げてくれれば……。アヴリルからして出番少ないんだけどさ。
  • コルデリアのあの最後は普通なら生存フラグだと思うんだけど、まあ、ないわな。
  • ブライアン・ロスコーとジュピター・ロジェが最後まで頭の中でごっちゃになってた。
  • 数年前に、作者が「待ってくれてる小さな読者のためにも完結させたい」と言ってたけど、その子らは今幾つになってるんだろ。ちゃんとその子らのところにこの物語が届いているといいな。
  • 何度か言ってるけど、海外の児童文学っぽくて、歴史や文化をわりと事細かに取り扱っているという点で、自分の中では小林めぐみ「必殺お捜し人」と同じカテゴリに入っていた。