封仙娘娘追宝録(11) 天を決する大団円(下)/ろくごまるに/富士見ファンタジア文庫

封仙娘娘追宝録11  天を決する大団円(下) (富士見ファンタジア文庫)


復活した殷雷。暴走する龍華と、それを止めようとする和穂=鏡閃。滅茶苦茶になる人間界の、行き着く先は……?中華風異世界ファンタジー、14年越しの最終巻!


……読み終わった直後は、『オーフェン』最終巻の時のようにひたすら呆然としていた。8割くらい読み進めた時点で、どう収拾をつけるのか全く予想がつかなかった。最終的には、龍華の目的やらなんやらには、まあ多分ろくごスレで散々考察していたせいだと思うんだけど、それほど衝撃は受けなかったかな。でも、そこはまあ、「ありふれているだけなら別に構わないけど、「どうだ、ひねったオチだろ」とカッコつけてる割にやっぱりありふれてるのが嫌い」なろくごらしい(正確には導果先生の発言だけど)とも言えるかもしれない。それはこれまでのシリーズも同様だったしな。ただ、オチに至るまでの展開が、なんというか、緻密にして強引、とでも言うのか。


このシリーズには本編と別に「奮闘編」という外伝短編集がある。ファンタジア文庫の特徴である、シリアスな書き下ろし長編、ギャグテイスト強めな連載短編、という伝統的なパターンをこのシリーズも踏襲しているのだ。キャラと世界設定は同一だけどテイストは別物、というこの形式に対し先人たちは幾つかの答えを出してきた。『オーフェン』では、長編の後にスタートした短編はその前日談(?)となっている。結果的に長編に先んじて終了した短編世界を前に進めない主人公のモラトリアム空間とし、短編のみに登場していたキャラを退場させることでこれを卒業させ、長編に繋げてみせた。同時期にスタートした『フルメタ』の長短編は、作中の時間軸もほぼ同一だ。これは、面白おかしい短編を「日常」の象徴として、長編で起こる戦いによって完膚無きまでに破壊してみせた。


では、長編の後に短編がスタートした『封仙』は。最初は両者の間に何の関係もなかった。やってることはどちらも宝貝の回収。どちらかを読んでいなければどちらかが分からなくなるようなことはない。先人たちの短編と比べるとギャグ一色というわけではないけど、人間の業とかにはそれほど深く入り込まない。……これが、本編9巻『刃を砕く復讐者(下)』、奮闘編4巻収録『暁三姉妹密室盗難事件顛末』あたりから様子が変わってくる。短編で回収した筈の宝貝が長編で登場したり、長編の要となる事件が短編で示唆されたりと、徐々に繋がりを見せ始めたのだ。そしてこの最終巻ラストで、全ては明らかになる。短編世界は長編ラストでやり直し始めた「2度目」の世界であり、テイストの違いは、龍華が和穂のため、宝貝で不幸になった人たちの業を出来る限り我が身に集めたためなのだと。


いやあ、並行世界ネタ、時間ネタ、ループネタなどを惜しみなくつぎ込んできたこのシリーズらしいじゃありませんか。これを読んだ後だと、『刃を砕く復讐者(上)』以降、あの独特の文体が生み出す雰囲気が軽妙さを失い、以前とは決定的に別の何かに変質していったのも、なんだか象徴的な出来事のように感じられてしまったり。……や、まあこの長編と短編の関係は、実は作中で明言されてるわけではないんだけど。これはもう、奮闘編の再開を期待するしかっ!……奮闘編でなくてもいいけど、とにかく新作を!結局新シリーズ立ち上げられなかったね、なんて言ってないぜ頼みますよろくご師匠。


余談として。ひさいち氏のイラストは、がらっと趣を変えてきたな。『刃を砕く復讐者(上)』あたりからその傾向はあったけど、バリバリにCG塗りっぽくなったというか。好みはあろうけど、277pの和穂は会心の出来だった。