ラノベにおけるイラストレーター交代劇


アニメ化以降音沙汰がなかった「迷い猫オーバーラン!」の新作が発売された。詳細は発表されていないが、それまでイラストを担当していたぺこが降板。10巻はヤス、11巻は氷川へきる、それ以降も毎巻イラストレーターのみならずキャラクターデザインごと一新していくという。本編ではヒロインの一人である希が髪を切るイベントがあったけれど、これはこの騒動に関係しているんだろうか。ヒロインみんなロングヘアでバランス悪かったとはいえ……


迷い猫オーバーラン! 9 わたしがみんなに護られてるの♪ (集英社スーパーダッシュ文庫)迷い猫オーバーラン! 10 ……護る? (迷い猫オーバーラン! シリーズ) (スーパーダッシュ文庫)迷い猫オーバーラン! 11 ドラマCD付予約限定版 (集英社スーパーダッシュ文庫)


シリーズ途中でのイラストレーター交代は、関係者や読者にとっては大事だろうけれど、業界全体から見ればそう珍しいものではない。個人的に印象に残っているもの/よく名前が挙がるものとしては、単行本1巻はokama、2巻目はC-SHOW、その後雑誌で発表された短編についてはあらいずみるいと、単行本が2冊しか出ていない/特に発表期間が空いた訳でもないに2回イラストが交代した吉村夜「レスト&ハーウィン」(富士見ファンタジア文庫)、


魔魚戦記 (富士見ファンタジア文庫)星に願いを―レスト&ハーウィン (富士見ファンタジア文庫)


最終巻のみイラストレーターの翠川しんが降板し、表紙からキャラクターイラストが消えた甲田学人「Missing」(電撃文庫


Missing〈12〉神降ろしの物語 (電撃文庫)Missing〈13〉神降ろしの物語・完結編 (電撃文庫)


それまで二十年以上シリーズを支えてきた末弥純から小畑健に交代させたにも関わらず、すぐにまた末弥純に戻った菊地秀行の「魔界都市ブルース」(祥伝社ノン・ノベル)


夏の羅刹 青春鬼―魔界都市ブルース (ノン・ノベル)魔界都市ブルース 妖婚宮 (ノン・ノベル 849 魔界都市ブルース)魔界都市ブルース 〈魔法街〉戦譜 (ノン・ノベル)


表紙はそのまま、本文挿絵がいのまたむつみから所智一に交代した時点で脱落した(これはイラスト交代はきっかけに過ぎないと言う人が多いけれど)と術懐する人も少なくない藤川桂介宇宙皇子」(角川ノベルス・文庫)


宇宙皇子(うつのみこ) (黎明編 1) (角川文庫)



30年、130巻以上続いただけあって加藤直之⇒天野喜孝末弥純丹野忍とイラストも描き継がれていった栗本薫グインサーガ」(ハヤカワ文庫JA


豹頭の仮面―グイン・サーガ(1) (ハヤカワ文庫JA)サリアの娘―グイン・サーガ(20) (ハヤカワ文庫JA)ヤーンの星の下に―グイン・サーガ(57) (ハヤカワ文庫JA)星の葬送―グイン・サーガ〈88〉 (ハヤカワ文庫JA)


交代とは少し違うが、初出のノベルス版は天野喜孝、後に文庫化される際にはCLAMPが担当し人気を博している「創竜伝」(講談社ノベルス・文庫/ちなみに講談社YA!Entertainment版は田島昭宇


創竜伝(13) 噴火列島 (講談社ノベルス)創竜伝13〈噴火列島〉 (講談社文庫)


などがある。
既刊分のイラストを差し替えた新装版が出るかどうかは、巻数や人気次第かな?シリーズ途中でなくとも、「デュアン・サーク」など第2部なり第3部なり新シリーズが開始した際や、何らかの事情により出版社を移籍した際に交代することも。


雑誌掲載時と単行本で別にってパターンもあるか。有名なところだと今野緒雪マリア様がみてる」のコバルト初掲載時はひびき玲音ではなくあおい由麻だったり、乙一「GOTH」はザ・スニ連載時には緒方剛志のイラストがついてたり。


……そういえば同じくSDでぺこ氏がイラスト担当してた「魂振」ってどうなるんだろう。既刊新装版とかの話が出てきてないってことは既に出てるものはそのまんまなのかな。あとこれからは矢吹先生に、という声は多かったけど、同作者の「パパのいうことを聞きなさい!」を担当しているなかじまゆかに、という声は聞かなかったな。


魂振の練習曲(エチュード) (集英社スーパーダッシュ文庫)迷い猫オーバーラン! 1 (ジャンプコミックス)パパのいうことを聞きなさい!  1 (スーパーダッシュ文庫)


それで、「迷い猫」は毎回キャラデザを変えていく、というのが今までになかった点なわけだけど、どうなんだろ。ラノベのキャラクターデザインっていうのがどこまでを指すのか分からないからなー。藤原祐の「レジンキャストミルク」「アカイロ/ロマンス」における椋本夏夜みたいに、企画発足時からイラストレーターが深く関わってる例もあるようだけど、昔ながらの、まず小説があって絵師はそれに後からイラストをつける、という工程がなくなったという話も聞かない(というか新人賞デビューというものがある以上決してなくなりはしない)。後者の場合、本文中で言及されている外見的特徴ではなく、イラストレーターが独自に付け足した要素……ぱっと思い出せるところだと

  • オーフェン」のバンダナや皮ジャン、魔術士同盟制服
  • 「閉鎖のシステム」の珍妙な衣装(あれは編集の人が「不条理演劇っぽいやつを」と指示したらしいけど)
  • フルメタ」宗介の頬の十字傷
  • 「ロードス」ディードリッドの極端に長い耳

とか、そういうパーツを(イラストレーターが権利を有する)キャラクターデザインとして扱うのかな。イラストレーターが交代しても、キャラクターデザインを引き継ぐなら「キャラクター原案」として前の人を必ずクレジットしてくれれば、とも思ったのだけれど、どうもそういう風にはなっていないようで……。


ちなみに、各巻イラストレーター交代制、というアイディア自体は、シリーズ途中からじゃなければ面白いと思った。基本的に各巻完結、縦の繋がりが希薄なシリーズであれば(最初からその形式で)どこかでやってほしい。例えば……上に挙げたから言うわけじゃないけれど、菊地秀行の諸シリーズとかはその傾向が強いのかな。