マリア様がみてる〜「いとしき歳月」まで/今野緒雪/集英社コバルト文庫

マリア様がみてる 1 (コバルト文庫)

マリア様がみてる 1 (コバルト文庫)


00年代前半に百合ブームを巻き起こしたお嬢様学園コメディ。長いこと途中で止まってたんだけど、昨年の映画の影響で読み返し始めた。現時点ではとりあえず1年生分まで。


基本的には「なんて素敵にジャパネスク」「十二国記」「彩雲国物語」など同様、少女小説で人気がありそうな宮廷劇の亜種だと思う(お嬢様学校ものとしては「花物語」「おにいさまへ…」「クララ白書」とかを挙げる人が多いんだろうけど)。平凡な女の子がひょんなことから宮廷に召し上げられ、内部改革が起こり、それが民衆全体に波及。また逆に民衆の中で起こった問題が宮廷内のミクロな問題と繋がっていく。


軸になるのはスール制山百合会という矛盾を孕んだ、でもだからこそ面白い権力体制(「ロサ・カニーナ」などでこの辺りは主題となっている)。上流階級の人たちを描いた作品だから自然主要キャラの一般生徒に対する目線は上から見下ろす形になり、時に酷評もする(「型どおりの桂さん」とかネタにされてるけど祐巳の立場を考えるとかなりアレだ)。上下関係にも厳しく、低学年と高学年の間の壁は高く(「薔薇様なんて言われてもたかが高校生」と本人たちは言うけれど、年下から見るとそれは絶対的なものに映る)、なんというかある意味体育会系冲方丁が指摘したようなきわめて健全な教養小説


主人公が祐巳とはいっても、視点人物を変えた中短編で構成されたオムニバス形式の巻も多く、内容はバラエティに富んでいる。ぞれぞれの構造としては、ある登場人物がどうしてそのような言動に至ったのかがストーリーを通して明かされていく、推理小説ならホワイダニットと呼ばれるようなもの基本かな?考えてみれば自分の読んできたライトノベルの中で、ここまでストイックに登場人物の心理のみを追っかけてる作品って珍しくて、そこが新鮮に映ったっていうのはあるかもしれない。


また、こう言っちゃなんだけど今野先生の物の見方ってあとがきとか読んでも独特のものがあって、それが登場人物の、年中行事やらなにやらに対する、まあ高校生らしいっちゃらしい、やや偏見じみた思考に合ってる気がした。


百合物件としては、ソフトかつ湿度低め。祥子さまのバストサイズがどうしたとかいうセクシャルな話題も出てくるけど、そこまで踏み込まない感じ。ただ精神的な結びつきはどこの姉妹も硬く、重い。カップリングとしてはブーム当時は白薔薇派だったんだけど、今読み返してみると聖×蓉が一番好きだなあって思った。というか厳密には聖様に片想いしてる蓉子様が好きなのかな。「ウァレンティーヌスの贈り物」「いとしき歳月」でぐっとキャラが立ってきたよなあ蓉子様。次点で祐×由。


文章は結構凝ってるものの、少年向けのレーベルでよく見られるような凝り方とは少し違う感じ。同じ少女向けでも「今日からマ王」とかはあまり少年向けの文体と遠くないなあと思ったんだけど……うーんなんていうんだろうこういの。

各巻感想

  • マリア様がみてる:「めでたそうで、いいお名前」ってひとつ間違えるとすごい馬鹿にされてるように聞こえそうだなあ/志摩子さんにクラブサンドはともかくフライドチキンは似合うか問題。初期は志摩子さんが「大爆笑してる」なんて描写もあったし、イメージが違ってきてるのかな/「白薔薇様に気をつけなさい」という祥子様は聖様をどういう目で見てるんだろうか/お嬢様度は1巻がピークで、後はキャラがどんどん庶民的になっていった気がする/育ち盛りとはいえ女の子がおやつにカレー?/最初のほうのひびき先生のイラストは肩幅がやたら広い。宝塚的なものを意識したのか、祥子さま始めみんなえらく男前のようなそうでないような。
  • 黄薔薇革命島津の正体見たり、な巻だけど1巻でそんな目立ってなかった次でこれだから、衝撃は薄かったかも/蔦子さんは同年代の人に比べて大人として描かれていて、手厳しいことを言ったりもするんだけど、そういう時どうも盗撮趣味が足を引っ張っている気がしてならない。普段はおちゃらけてるけど突然主人公に説教し始めるキャラとかよくいるけどさ/キュロットスカートとセーターの島津がうなってるイラストが大好きです
  • いばらの森:公式で早売りを黙認しちゃっていいのかしら/「よろしゅうございますかなんてこの先一生使わないんじゃないだろうか」とか言われてる書店員さんかわいそう!/「自分の体を売るのと精神を売るの、どう違うの?」って凄いセリフだ//「顔が好きだから一緒にいなさいと言われるほうが楽」というのは確かにその通りかもなー/「マリア様がみているから……!」決め台詞としては1巻よりハマってた気がする/祥子様のモデルはお市の方幻の少女小説レーベル「宮廷社コスモス文庫」を知っていますか
  • ロサ・カニーナ:「あなたの顔見てたら急に食欲わいてきたのよ、わたし」ってなんというか、焼肉屋と堀の内ソープ街くらいダイレクトだな/この巻を読んだ後、一部のオタクの間で「なかきよ」が流行ったことは言うまでもなく。しかし、恵方巻きの話題が今となっては懐かしい……。
  • いとしき歳月:薔薇の館はボロいけど、祐巳の妹が卒業するくらいまではもつだろう、というのは山百合会の行く末を示しているんだろうか/令ちゃん最大の見せ場がここに/姉を時々異性として意識せざるを得ない祐麒がいとおしい/祐巳志摩子さんの教室を描いたイラストで、志摩子さんの後ろにいるモブキャラが妙に気になる。


気が向いたら「チェリー・ブロッサム」以降も読みたい。あと「スリピッシュ!」「夢の宮」も。でも後ろの二つはライトノベルがシリーズ物にファンがつくらしいことを考慮しても、自分の観測範囲であんまり評判聞かないんだよなー。まあ自分の観測範囲って基本的には少年向けライトノベル読みクラスタで、或いはそれは、マリみてという作品がいかに本来対象外である読者を取り込んだか、ということの現れなのかもしれない。