るろうに剣心追憶編+星霜編

先日見たビデオの、「リスキー☆セフティ」の後にこれが入ってました。原作の方では後半になるにつれ、段々と増殖していった超人的な必殺技など、少年漫画的な記号やギャグを出来る限り排し、週刊連載に耐えるためかより線が少なくシンプルになっていったキャラクターデザインをより写実的にし、徹底的に重く、背景美術など凝ったOVA2編。凄惨で迫力ある殺陣、四季の移り変わりが鮮やかな背景美術、それに絡めた登場人物の内面描写などなど、原作やTVアニメを知らずとも楽しめると思います。思い入れがあるに越したことはないけれども。


残念だったのは、草花や桜といったものを写すシーンで、時々実写パートが挿入されること。元々が写実的な作風なんでそんなに違和感はないけど、演出意図がよくわかりません。全体的にクオリティは高く手抜きする意味があるとは思えないし、じゃあ実写でなければ描けない何かがあったかと言われると……。あれだけの背景を描けるのになあ。勿体無い。

るろうに剣心追憶編

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剣心の幕末時代、「人斬り抜刀斎」としての暗躍、そして巴という女性との悲恋を描く。スタッフで目につくところだと、キャラデザは柳沢まさひで。赤松アニメと同じとは……アニメーターの仕事ってホントすごい。どっちかっていうとIGっぽい絵なのになあ。キャストだと、巴役に岩男潤子清里明良に岩永哲哉桂小五郎役に関智一高杉晋作役に高木渉、飯塚役に中尾隆聖など。特に一番最後の飯塚は、声のお陰で原作以上にキャラが立っていると思います。


原作にない描写で気になったのは、大きく3つ。1つは、剣心と暮らしている最中、真夜中に巴が血(生理?)に苛まれるシーン。2chのスレでは婚約者・清里の死で血というものに恐怖を覚えるようになった……というのが多勢を占める見方であり、私もしばらくそう思っていたんだけれど、実際彼女はその死に様を見てるわけではないのにそんなトラウマになるかなあ、というのは少々疑問。剣心との邂逅で血の雨を浴びても顔色1つ変えなかったし。もう1つは、巴を影から操っていた幕府側の男が、婚約者にただそばにいて欲しかったという巴に対し、説教をするシーン。

世の平安なくして個々の幸せなど得られようはずもない。この徳川の世に害を成す者あらば、例えどれほど小さき芽であっても、あらゆる手を講じてこれを摘む。その用心深さこそが、徳川300年の太平の理由。我らがそれを支えてきたのだ。そしてそれは我らの業そのもの。我らも守っているのだよ、人々の幸せを。命がけでな


どうも原作だと単純な悪役になりがちだった「闇の武」が正義を語る。これって、剣心の「目に映る個々の人々の幸せだけを守る」ってやつと対になってるんですよね。ここらへんんは、純粋に上手いなーと思いました。ただ、これに限らず台詞で語っちゃうシーンが多過ぎるのはやや気になりました。和月らしさと言えばそうなのかもしれないけど、追憶編にはそぐわない気がするんだけどなー。


そして、最後、剣心の十字傷のつけ方。原作では清里がつけた傷の上に、死の間際、巴の手を偶然離れ宙を舞った短刀がもう1つ一文字を刻んでいました。が、こちらでは巴が最後の力を振り絞って、自分の手で一文字を頬に刻んでいます。これはどういうことなんでしょうね。巴は結局、清里と剣心のどちらも選べなかったのか。せめて一太刀を浴びせたい、という復讐だったのか。また、最後の言葉は誰に向けられたものだったのか。その直前に巴に見えた清里の幻影が何かを語ったのだとは思いますが……数年経った今でも分かりません。


・でぃふぁれんと・すとろーくす感想
http://www5a.biglobe.ne.jp/~syo-yo/tuioku.html

るろうに剣心星霜編

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TV版でも描いた京都編まで、及びその後の人誅編のダイジェスト、そして原作終了から15年後のストーリー。ダイジェストといってもTV版の映像をそのまま使うことなく、全て1から描いています。今回は脚本を吉田玲子が担当。声優では緋村剣路に甲斐田ゆき、雪代縁役に佐々木望など。


この星霜編は、ファンの間ではきわめて不評です。その理由は、端的に言うと剣心が最後に死ぬから。……もう少し詳しく説明しましょう。


人誅編後の剣心は、以前にも増して戦いの中に身を置くようになる。以前から体に蓄積されていた損傷で刀が振るえなくなり、逆刃刀を手放した後も、災害や戦火、病で苦しんでいる人たちのため、日本中を飛び回っていた。それでも不幸はなくならない。その中で、剣心は病を背負うことになる。治療法が見つかっていない、不治の病だった。薫は剣心と苦しみを分かち合いたい一心で、剣心の病を伝染(うつ)してもらう。そして、剣心は最後の旅に出る。薫は病に臥せりながら夫の帰りを待っていた。紆余曲折を経つつも剣心は帰ってきて、薫と無事再会する。が、桜の木の下で薫に看取られながら息を引き取ってしまう……。


別に私は、主人公が死ぬからというだけでこの作品を否定する気はありません。和月みたいに、エンターテインメントはハッピーエンドじゃなきゃいけないみたいなこともないし。天寿を全うし、子供に囲まれながら息を引き取ったとか、あるいは「剣と心を賭してこの闘いの人生を完遂する」という言葉通り、戦いの中で体に蓄積されていった損傷が死に繋がったとか、そういうことなら原作後の話として受け入れることも出来ます。でも、何故ここで突然不治の病なのか。確かにそれも人々を救うための戦いの中で負ったものなんだから、「闘いの人生を完遂」して死んだと言えなくもないのですが……なんか、嫌な想像をしてしまうんですよね。


というのも、この星霜編は総じて薫がメインです。彼女が剣心から巴の話を聞いて、自分は果たして剣心にとってどれほどの存在なのか。巴以上のかけがえのないものになれるのか。死人にはどうあがいても勝てないのではないのか。そう悩むシーンが幾つかあります。そして彼女は、剣心と結婚し、夫婦として離れていても繋がっている証として、「病」を共有しました。……とこう書くと、なんだか薫を救済するために剣心に無理矢理病を背負わせたように思ってしまうんです。


まあ、「原作とは別物」の一言で済ませればいい話ではあるんですが。下手に出来がいい分、インパクトも強かったということで。