『ひとつ火の粉の雪の中』新潮文庫nex版加筆修正部分一覧


この度、新潮文庫nexから秋田禎信のデビュー作『ひとつ火の粉の雪の中』が復刊される運びとなりました。こういう場合、基本的にほとんど手を加えることがない著者にしては珍しく結構な量修正がされているので、新旧の照合表を作ってみました。


ひとつ火の粉の雪の中 (新潮文庫nex)

ひとつ火の粉の雪の中 (新潮文庫nex)


富士見ファンタジア文庫版は1997年8月10日発行の八版を、新潮文庫nex版は2015年1月1日発行の初版をソースにしています。

強調のための傍点は、はてなでは出せないので、太字にしています。段落ごと削除或いは追加されたものは、その段落がない方を-で埋めています。複数回出てくる固有名詞については最初に記しました。その場合のページ数は初出のもの。

また、新たに書き下ろされた掌編については当然ながら含んでいません。

固有名詞
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
60 天竜天竜鬼神、天竜八部、 60 天龍、天龍鬼神、天龍八部
68 女神(ひめかみ) 68 女神(みながみ)、女神(をみながみ)
69 光覇 69 極光覇道
138 真影 133 (大仙魅)ヌイ
168 〈覇者界〉 160 〈颱帝界〉
193 十六夜 183 リユヌ
250 死人の法 236 死人の術
序章 鬼の子
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
5 風は、ただ流れ往くだけだーーーこの地の上を、そして、ときには下を 9 風は、ただ流れ往くだけだ。この地の上を、そして、ときには下を
6 生と死は常に一つだ。 10 生と死は常に一つだ。あるべきようにある
7 野良 11 野良の犬
8 炎の手に“祝福”された 12 炎の手に撫でられた
8 低いが圧倒されてしまう声を出した 12 囁きを発する
8 鈍らせることはできない 13 鈍らせることはない
9 鬼界の中でも、最も恐れられる稲妻である 13 鬼界の破条、夜の薨去、天下の術でも最も恐れられる稲妻である
10 そしてーーーこの大男が何処にも行ってくれそうにないと悟ってーーー 14 そしてこの大男が何処にも行ってくれそうにないと悟ってか、
12 鳳は無視してーーーというより、気をまわすといったようなことを知らないのだろうーーー繰り返した 15 鳳は無視して繰り返したーーーというより、気をまわすといったようなことを知らないのだろう
12 そもそも感情を持たないーーー知らないーーー鳳 15 そもそも感情を持たない鳳
16 夜闇は無邪気に頷いた 19 夜闇は頷いた
其の一 蜘蛛の里
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
18 鈍い輝きを覗かせている 21 鈍い洞を覗かせている
18 表情というものをまるっきり見せない 21 髑髏のごとく顔を変えることがない
18 大男は、にこにこしている少女とは対照的に無感動な声を出した 21 大男は、にこにこしている少女に問いかけた
19 いつも通り少女には分からなかったので 22 この大男の煙に巻くような物言いは、いつも通り少女には分からなかったので
19 大男は表情をぴくりとも変えない 22 大男は動じない
22 修羅は恐れない 25 鬼斬りの修羅は恐れない
22 記憶さえ持ってはいないのではあるが 25 記憶さえ曖昧なのではあるが
22 常に今の 25 常に今の
23 無表情についていく 25 ついていく
25 陶酔の吐息のような声 28 陶酔の声
30 夜闇は完全に記憶力というものを欠乏させている 32 もの覚えにむらがある夜闇と話をするには、こうした忍耐を要することが多い
31 鳳はそう言うと 33 鳳は
33 表情を変えずーーーつまり眼を陰らせたままーーー答えた 35 表情を変えず答えた
33 不快な表情を見せない 35 不快な気配は見せない
33 普段からは考えられない、長い台詞だった。一つの質問に対して三言も発するなど、滅多にあることではない 36 -
36 びっくりしたような寝ぼけ続けているような複雑な顔 38 びっくりしたような、あるいは夢でも見続けているような複雑な顔
37 鳳はそれでも表情を変えず、 39 鳳はそれでも
37 干し草の上 39 藁の上
37 普通の太刀 39 並の太刀
37 太刀は興奮して振動していた 39 太刀はわずかに振動していた
38 ばたんと干し草の上に倒れた夜闇 40 ばたんと倒れた夜闇
42 彼女が力を使ったりはしないか 44 彼女がそのために力を使ったりはしないか
45 これらの台詞は 46 わざわざ言ったのは
45 一本のこより 47 一本の紐
48 数刻が過ぎた 49 不動の時が過ぎた
48 床が吹き飛びながら陥没した 49 床が吹き飛んだ
50 印を敷いた 51 印を結んだ
51 だがそんな時間はなかった。その直後、夜闇の悲鳴が響き渡ったからである。 52 その直後、夜闇の悲鳴が響き渡った
51 実際のところ、ほとんどないと言ってもいい(言っても無駄だからだ) 53 はっきりしたことは思い出せないのだが、そうだったように思う
52 夜闇は、大男の感情を示さない無表情を思い出しながら考えた。無愛想な男だが、それなりに彼女には優しいように思う 53 夜闇は、ぼんやりと考えた。無愛想な男だが、それなりに彼女には優しい
52 そんなことを考えながら 53 そんな気を揉みながら
52 夜闇がびっくりして見ていると、灰になった蝶は彼女の足下に落ちた 53 灰になった蝶は彼女の足下に落ちた
53 こより 54
其の二 天龍鬼神
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
64 太刀を杖代わりに、ふらふらと歩いている。半死半生としか言いようがない 64 太刀を杖代わりに、半死半生でふらふらと歩いている
64 七人の武者たちが、彼の傍らに近寄ってくる。彼らとて、かなりの傷を負っているらしかった 64 七人の武者たちが、彼の傍らに近寄ってくる
66 溶岩のような眼光は赤く 66 眼光は溶岩のごとく赤く
67 崩(くず)おれた 67 くずおれた
閑話 修羅の話
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
68 二つの山の鬼斬りどもは、鬼に屠る、鬼を屠る 68 二つの山の鬼斬りどもは、鬼を屠るものたちであるという
68 人の鬼斬りが叉車山鬼斬り。奴らは鬼を屠るほどの力を持っていない 68 人の鬼斬りが叉車山鬼斬り。であるが実は、奴らは鬼を屠るほどの力を持っていない。鬼を予見し、避けるがせいぜいだ
72 その……太刀ですがね 72 その……刀ですがね
74 (場面転換のための改行あり) 74 (なし)
75 やがて女も寝入って、夜も更けてきたころ 74 やがて夜も更けてきたころ
76 有志を募って交替で 75 みんな交替で
82 幻術(まほろば) 81 幻術
82 “狙い”を定めた 81 狙いを定めた
85 いつしか、緑水は方円に従い、日は沈み夜は暗く……ただ首方と水方の遠吠えは、いつまでも遠く響き渡る 84 時を忘れるほども斬り続け……
其の三 鬼の姿
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
103 眼の奥のーーーそれこそ外からでは覗けないほど深奥のーーー光 100 眼の奥の光
103 紅蓮の炎を内に秘め、まさにーーー地面の下の溶岩の如し 100 紅蓮の炎を内に秘める
104 数歩先を気楽に歩いている 101 数歩先を進んでいく
104 そこは、ちょっとした渓谷だった 101 そこは、ちょっとした渓谷だった
105 嬉しがってもらうのも困る 102 嬉しがられるのも困る
105 突然夜闇が、無邪気そのものといった声で言った 102 夜闇は駆け戻ってくると、いつもとは少し異なる訊き方をした
106 静かに言った 103 静かに付け加えた
106 声は相変わらず無感情だ。だが、彼が“遠い日"を明かしたのは初めてである 103 声は相変わらず物静かだ。だが、夜闇の薄ぼんやりとした記憶にもはっきりと分かるほど、それは初事だった。“遠い日"が明かされるというのは
106 つい欲を出して言った 103 つい欲を出した
107 この場合、一昨日以前の、ということだ 104 -
108 食らう 105 喰らう
112 眼を皿のように見開いて、彼女は訝った。驚きが去ると、自然と眉根が寄っていく。まさか、この男から呼びかけることがあったとは、とんでもない新発見である。少なくとも、彼女はそう思った 109 夜闇は眼を皿のように見開いた
113 呼びかけられるほど悪いことをしただろうか 109 呼びかけられるほど悪いことをしただろうか
113 無論のことだが 109 だが
113 おもむろに怪訝な表情で 109 怪訝な表情で
114 ただの“おしゃべり” 111 ただのおしゃべり
118 夜闇の“正気” 114 夜闇の正気
119 ものの十秒ほどだろう 115 あっという間だ
126 変に気を紛らわせて 122 変に気がそれて
128 この七結界星と妖刀女神こそが 123 鬼斬りの基となる八極陣と、この七結界星、そして妖刀女神こそが
131 当たり前だ……鬼は、夜闇の内にいるのだから 126 当たり前だ……鬼は、夜闇の内にいるのだから。奥から扉を開けようと、常にうかがっている
133 喧嘩を買いまくっている 127 喧嘩を買いまくっている
135 天地者十二獣王、一の“悟海”! 129 天地者十二獣王、一の“悟海”!獣の主、最大の下僕よ!
137 鳳は、ふうっと息をついた 132 と、鳳は息をついた
138 息ができないよ、と夜闇がぼんやりと考えるころ、鳳は再び声に出した 132 鳳は再び声に出した
138 鳳は、瞬時にこの相手がどれほど危険な相手であるかを察した 132 同時にこの相手がどれほど危険な相手であるかを察した
139 声は笑った 133 と命じられて出てくるものではない。声は笑った
141 鳳は決心した 136 鳳は心を決めた
143 結界の“輪郭” 137 結界の輪郭
145 夜闇は、記憶を残している 139 夜闇は、記憶を残している
其の四 月の影
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
149 こより 143
155 定め 149 定め
169 妖術の暗雲が消えたせいだろう。彼女を捕らえていた結界も消え失せてしまっていた 161 妖術の暗雲が消えたせいだろう。
其の五 出口
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
174 “結界” 166 結界
175 滅びたのだ 167 滅びたのだ
175 まだ在った 167 まだ在った
192 (場面転換のための改行あり) 182 なし
192 どうせこの屋敷の周りには、迷い影の陣を敷いてある。この館を離れることはできん 182 どうせこの館を離れることはできん
195 肝腎の 185 肝腎の
195 彼女は 186 夜闇は
196 歌声の 186 歌声の罠
197 彼女は把手を引いた。 187 夜闇は把手を引いた。が、開かない
198 開かない扉など、屋根のない屋敷と同じような物だ。開かない扉を作るくらいなら、最初から壁にするが良い。まったく、奇妙な屋敷だった 188 開かない戸など、夜闇は聞いたこともない
198 - 188 戸というのは、手をかければスッと開くものだ。そうでないのは蔵か牢くらいだ。
201 どうも夜闇が見たところ、この部屋は牢屋のように見えた 190 どうも夜闇が見たところ、この部屋は牢屋のようだった
204 無邪気に聞く夜闇 193 繰り返す夜闇
204 完全に幼児でも相手にするような声色であった。まあ、無理のないことではある 194 完全に幼児でも相手にするような声色であった。
211 崩壊するような小屋というわけでもない 200 崩壊するわけでもない
223 は続いた 212 声は続いた
224 同じことを言っているのだと悟った 213 同じことを言っているのだと悟った
224 彼女の苦痛が去った 213 苦痛が去った
其の六 天者地者
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
231 お主が望むものは与えられない 219 女神の命ではない。わしは、己の望みで夜闇に会い、共に旅した
231 どういう意味だ?与えられない、とな?誰がわしに与えるというのだ? 219 どういう意味だ?修羅の鬼斬りに意志でもあるような物言いだ
231 「わしは、自ら手に入れるのみだ 219 -
232 神は額の目をぎょろつかせ、 219 神は額の目をぎょろつかせ、そう答えた。
232 そう続けた。鳳は、あっさりと返した 220 嘲る神に、鳳は、あっさりと返した
232 天者地者は微笑した。「良かろう」辺りは静まり返っている。結界の中だから当たり前だが、何処かに出口があったはずだ。天者地者が閉じてしまったのだろう。もし開ける気がないなら、面倒なことになる 220 辺りを見回しても、なにもない。鳳が一度は解いた出口も、再び閉じてしまっていた。閉じたのは天者地者だ。答えの解けた結界を、力だけで敷き直してしまった。その剛力を見せつけて、告げる
234 それも、長くは続かぬのかも知れぬな。しかし、続けねばならぬーーー確かに、もう長くはないがな 222 だが、戦い切るほどの猶予ならば……あろうよ
234 生まれたとて、育ちはしない。鬼界に耐えきれず、滅びるだけだ 222 生まれたとて育ちはしない。鬼界に耐えきれず滅びるだけだ
235 鬼の子が十二まで生きた?これが長くないというのか 222 不満があろうか?死ぬはずだったものだ
235 恐怖 223 恐怖
235 「あと一年の命なら、せめてその一年を生かしてやるのだ 223 「何者にも触れさせぬ。そのためであれば、修羅の理も知ったことか。鬼斬りがあの子を守ってみせる」
236 修羅は恐れない。本物の修羅は、笑いすらしない。修羅は、怒るのみだ 223 だが言いながら反面、鳳の形相はまさに修羅の本分でもあった。修羅は恐れない。修羅は、怒るのみだ
236 わしには分かる 223 わしには分かる
236 鳳が半眼で命じる。その形相は、まさしく修羅ーーー炎の鬼神だった 224 鳳が半眼で命じる
236 鳳に外に出てもらうわけにはいかない。でなければ、わざわざ自分の結界の中に放り込んでまで、鳳を真影の術から守ってやるような義理はない。鳳には……少し彼のために働いてもらう必要がある 224 鳳を外に出すつもりはないようだった
238 出ていかせるわけには、いかぬ 224 貴様にはやってもらわねばならぬことがある
239 破れるはずがないのだから 225 破れるはずがないのだから
239 あるいは、必然なのか? 225 あるいは、必然なのか?世の理が崩れているというのか
239 真影ごとき 225 妖術使いごとき
其の七 苦痛多き世界
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
244 - 231 本当は、夜ではない。しばらくしてそう思い直した。
244 太陽がひたすらに照りつける 231 太陽が照りつけるのを肌で感じている
247 何も見えない。何で突然夜になっちゃったんだろうーーー 233 何も見えなくなるーーー
247 バッタだ 233 飛蝗だ
251 まるで、人が蠢くようだ 237 まるで、人だ
254 自分もろとも 239 自分もろとも
254 “黒いもの”のような獣魔 240 仲間であった悟海のような獣魔
255 焔(ほのお) 240 焔(ほむら)
258 わしこそ 244 わしこそが
260 不敗一千年を誇る 245 不敗を誇る
262 鬼までもが子を生す 248 鬼までもが子を生す
263 夜闇は生きた 248 夜闇は生きた
263 諭しの気配 248 諭しの気配
263 我々が人間を統治し 248 我々が人間を統治し
263 我らは、支配しなければ支配されてしまう 249 我らは、支配しなければ支配されてしまう
264 「何故、これを生かし続けてきたのだ?これは鬼だ。女神が命じたのは、まさか鬼の守護ではあるまいーーーうぬの使命は、この鬼の子の永遠の封印だったはずだ。ならば、殺すのが最も簡単だっただろうが!鬼斬りならば造作もないことであろうに、それをわざわざ、何故、生かし続けてきたのだ? 249 無為と分かっていたはずだ。そして鬼の子は死に、まさに無為に終わった。それを正そうとは思わぬのか。甦らせようとは!
265 最後の一言だけだった 250 最後の一言だけだった
265 見て欲しかったのだ 250 無為ではない。夜闇は見たはずだ
265 理解して……欲しかったのだ 250 理解したはずだ
265 この世で最も面倒な定めを背負った鬼の子には 250 面倒な定めを背負っていたからこそ
266 わしらは、わしらのように自分を為しているーーーつまり、己が宿命を受け入れ、従い、そして、殉ずる 251 わしらは、己が宿命を受け入れ、従い、そして、殉ずる
267 覇者界があれば 252 力があれば
268 永遠に戦を続ける 252 鬼をも屠り、鬼を消さんとする
270 絶対に 255 絶対に
272 光覇呪 257 光呪
272 まほろ 257 まぼろし
終章 海の声
富士見版ページ 富士見版の文章 新潮版のページ 新潮版の文章
281 - 264 世にただ一人であった鬼の子だが、これからはそうでなくなる、と鳳は分かっていた。世界が定めた理を、人の命は崩し、そして取り込んでいく。人がやがて、鬼をも受け入れれば、鬼はなくなるのだろう。
282 - 265 「わしは、鬼の子の守り人になるのさ」
282 そして、多分この答えに 265 多分、この答えに
282 (最後の二行に改行なし) 265 (あり)
  • 基本的には、強調のための傍点、引用符、連続する同じ語彙(鳳に対する「無表情」とか)などの修正でくどい部分を削ってるよう。それとーーー秋田作品ではおなじみのーーーダッシュの多用な。こうして見ると、完成されてるかのように思えた文章も結構改善の余地あったのね
  • これみんな考えたと思うんですが、大仙魅ヌイってルリンカ世界のネーミングですよね
  • 見て欲しかったのだ→無為ではない。夜闇は見たはずだ、と、理解して……欲しかったのだ→理解したはずだ は随分踏み込んだなと
  • 真影=ヌイはフランス語で夜を意味するnuit、十六夜=リユヌは月を意味するluneから取ってるっぽい。女神がおみながみ=てるてる坊主であるからこれも対比なのかな。おみながみとみながみの使い分けの意味はよくわかんない
  • 颱帝界→颱(台)風が過ぎた後は空が晴れ渡る=太陽が顔を出すから?

感想はAmazonのカスタマーレビューの方に書きました。
http://www.amazon.co.jp/gp/aw/review/4101800235/R3PTAJKJUQWRH2/