2011年になって初めて「くりいむレモン」を全話観た
言わずとしれた、アダルトアニメ黎明期の大ヒットオムニバスシリーズ。制作はフェアリーダスト。1984年にリリース開始し、1994年までの全40作で200万本を売り上げたとか。実はシリーズ通してちゃんと観たのは最近だったり。というのも自分が興味を持った頃にはこの作品は既に古典の域に達していて(ブギーポップがラノベにおける古典というくらいには)、こんな古いのじゃ抜けねえや、と思い込んでしまったから。さりとてこの手のものをお勉強のために触れるというのもなんだか違う気がしたのです。……結果的にはそんなつまらんポリシー(笑)もっと早く捨てとくべきだと思った。
印象的だったのは女性主人公物が多いという点。純愛系エロゲーの要素が少女漫画的なものから輸入されたものであるのと同じように、エロアニメもそっち方面からの影響が大で、男性主人公の視点を通じてヒロインと交流するんじゃなくヒロインを神視点で見守るみたいな方向性が当時は強かったのかなーとか考えたけど、特に確証あってのことではない。そもそもエロアニメで女性主人公ものってエロゲに比べると圧倒的に多いし。
また「新くりいむレモン」で仕切り直してからは、エロ以外の、テーマ性とか、ホラーめいた雰囲気とか、背景美術とか、そういうのを追求していくようになっていった感があった。
以下個別感想。詳しいあらすじなどはWikipediaと公式サイトで。「亜美」「エスカレーション」「黒猫館」「いけないマコちゃん」「魔人形」「ゆめいろBUNNY」「青い性〜アンジェ&ローズ〜」辺りが好きです。森山塔の一連の作品は印象深いけど苦手。一番ネタにされるのは「スーパーバージン」。スタッフが豪華なのは「POP CHASER」。
亜美(媚妹Baby/亜美AGAIN/亜美・イマージュ 〜白い影〜/亜美3)
- シリーズ一作目にして代表作。薄幸の美少女・亜美の、義理の兄との禁断の愛を描く。亜美役の及川ひとみの演技が嗜虐心をそそる。亜美の笑顔曇らせ隊。初期設定では11歳だったとか。派生作品も大量に作られた。
- なんとなく純愛(エロゲー的な意味で)物だと思っていたら、CV飛田展男のお兄ちゃんにヒロインが幼い頃に開発(?)されていたなんて過去が。比良坂先生は伊達じゃないということか。自分から誘っといて「こんなこと、もうやめよう」とか言い出すし、学校では優等生なんだけど、こと亜美との関係について言えばわりとダメダメお兄ちゃんとして描かれてるような。
- 主人公/語り手はあくまで兄でなく亜美。「亜美AGAIN」「亜美3」では二人の関係を知った母親に兄貴が海外留学させられて、寂しいところを河野という悪い男にひっかかったり。この辺りはどっちかというと少女漫画っぽいテイストのような。この辺の展開ってキャラ萌えしてたような人たちに当時どう受け止められてたんだろ。自分的にはご褒美ですが。
- 実は「亜美とんじゃう〜」はクライマックスではなく、挿入一歩手前で出てくる台詞。
- 「亜美・イマージュ 〜白い影〜」は亜美が街でスカウトされ、アイドルデビューするという内容のミュージッククリップ。これ以前から既に文化放送でDJ:亜美のラジオ「今夜はそっとくりいむレモン」が放送されるなどバーチャルアイドルっぽいこともしてたみたいだし、その流れだろうか。
旅立ち〜亜美・終章〜
- 本来「亜美シリーズ」の完結編として製作されたらしい劇場版。亜美が留学先の兄に会いに行く決意を固めるまでの話。同時上映は元々「くりいむレモン」の企画から派生したらしい「プロジェクトA子」。
- Hシーンがないことがこんなに違和感を生むとは思わなかった。性的なことに対してわりと積極的な18禁OVA版の亜美なら行為に走ってしまいそうなところで、欲情とかそういう気配を全くうかがわせない。まあ、そういったものから亜美が解放され独り立ちするための劇場版だったのかもしれないけど……
- 一般作なんだけど、スタッフ・キャストのクレジットはなし。今のご時勢なら、例えばエロゲーのTVアニメ化とかで「原作声優と非常によく似た声の人」を採用した場合、わりとあっけらかんと表の名前出してる気はするけど。
亜美・それから(哀しみのなかで/忘れたいのに/抱かれたいのに/微笑のなかで)
- 高校を卒業し、アイドルとして活躍中の亜美に再び河野が近づいてくる。そしてお兄ちゃんも帰国して……。
- キャラデザが一新されて等身が高くなり、亜美役の声優も及川ひとみから変更。最終的には河野ともお兄ちゃんとも別れ、一人の女性として自立していく過程を描いていた。それはいいんだけど、あの艶っぽさが完全に消え去っていたのが……。
エスカレーション(今夜はハードコア/禁断のソナタ/天使たちのエピローグ)
- 全寮制のミッションスクールを舞台にしたレズビアンもの。道具を色々使ったり縛ったり踏まれたりSM要素が強い。
- 2話目ではナオミお姉さまの父親と弟が登場して場に加わる。主人公の女の子も「亜美」よろしく兄と引き離されて女子校に入れられた経緯があったり、男が介入する度合いはわりと高い。けど基本的には竿役というか舞台装置。
- お姉さま役の早川ナオミってエロ漫画家に同名の人がいたけど、ここから取ったのかな。釣り目キャラミドリさんの小悪魔っぽい雰囲気が好き。
- ピアノ連弾ってこの頃からこの手の作品に定着してたのかしら。
SF・超次元伝説ラル(1,2)
- ビキニ鎧ファンタジー物。公式見ると1984年の作品だから、「幻夢戦記レダ」よりちょっとだけ先んじてるのね。ただ制作者の一人である富本たつや氏は当時はいわゆる「剣と魔法&半裸のビキニ少女」モチーフが流行っていたと、この作品が先行していたわけではないようなことを述べている。タイトルに「SF」ってついてるのは、まだ今ほどには「ファンタジー」って言葉が定着してなかったから?1991年の続編では「SF」の冠は取れていた。
- 「触手は性器でない」「FTなので問題ない」という理由で当時はモザイクが……という話だったけど、自分が観たDVD版ではきっちりモザイクが入っていた。ぐぬぬ。
- この頃からいわゆるレイプ目ってあったのね。
POP CHASER
いけないマコちゃん MAKO・セクシーシンフォニー(前後編)
スーパーバージン
(ファンからの投稿イラスト。「くりいむレモン総集編」で公開)
黒猫館(「続・黒猫館」も)
- 館モノ。昭和初期、人里離れた山奥にある「黒猫館」の女たちと主人公との退廃的な絡みを描いた作品。「亜美」「エスカレーション」と並んで評価が高い。
- クラシックをBGMに用いたアニメとしてはロボット物のエヴァ、宇宙戦争物の銀英伝、アダルトアニメのこれ、という感じ。
- 二次元メイドの先駆・あやちゃんが登場する。でも妖艶ロリの亜理沙ちゃんのほうが好きです。
- 「己の心と書いて忌まわしいと読みます。己の心に従って堕ちていくのが忌まわしいなら、それもよいものですわ……」は有名な台詞。
- 「続・黒猫館」はキャラデザなどが全く違ったこともさることながら、特に暴かなくてもよさそうな館の謎を解いちゃったという点でううむ、という感じ。
なりすスクランブル
- ロケットを装備して空を駆け、学園を守る女の子の話。
- ピグマリオンコンプレックスで「生身の女には興味がなくなってしまった」と言い放つ父親が面白かった。作中で「媚妹Babyごっこ」「エスカレーションごっこ」をやってみたり、パロディ度の高い一作。
森山塔ゲストスペシャル(5時間目のヴィーナス/放課後×××/そうかもしんない)
- 「5時間目のヴィーナス」は裏ビデオに出演した少女が、そのことを知った女性の美術教師に同級生の前でヌードモデルを強要される。「放課後×××」はメガネっ娘のお嬢様が覆面をした男たちに襲われる。「そうかもしんない」は、死んだ目をした平凡な(?)高校生が拳銃を拾ったことから、白昼堂々、淡々と女たちをレイプしていく。
- 「そうかもしんない」は当時の人気漫画家を原作・キャラデザに迎えた、「漫画家シリーズ」のひとつ。普段正論をぶっていても、なんだかんだいってお前らもこういうことしたいんだろ?と言われているような嫌悪感を覚えた。視聴者の反社会性を映す鏡的な。この人の漫画自体は嫌いじゃないと思ってたんだけど、一連の作品は演出がくどいこともあってどうにも。……まあ、この手の作品は嫌悪感覚えた時点でこっちの負けという気もするけど。
ホワイトシャドウ
魔人形[madol]
- 5年前に行方不明になったはずの美少女は当時のまま年をとっていなかった。主人公は彼女に、妖しげな官能の世界に導かれる。
- 「ホワイトシャドウ」から続けてのホラー。人とは違う存在になってしまった美少女に誘惑されて彼岸へ……という流れは変わらないけれど、雰囲気作りという点においてこっちのが圧倒的に上。
e・tude(雪の鼓動/早春コンチェルト)
- ポスト亜美シリーズを期待されて製作されたらしい。ヒロインの声優も同じ及川ひとみ。けど2話で打ち切り。男に捨てられたり襲われたり 「薄幸の美少女」というのが製作側の考えていた亜美シリーズのポイントなんだろうか。でも残念なことに、全くエロさを感じないんだよなあ……。エロシーンはあるんだけど、どこまでも綺麗なものとして描かれていて、全くいやらしくないのが致命的。
- 「亜美、飛んじゃう〜」→「由梨香、死んでもいい」?……関係ないか。
ゆめいろBUNNY
唯登詩樹ベストヒット ヨーロッパの印象
青い性 〜アンジェ&ローズ〜
- カナダの田舎にホームステイにやってきた少年が、その家の三人の女性と交流することで成長していく。
- キャラクターの作画は良いとは言い難いんだけど、その反面カナダの壮大な自然を描いた背景美術は結構なものだった。
- 黒髪のアンジェは、母親への反感から男と遊びまわっている不良娘。CVは若りし頃の三石琴乃。今まで観てきたこの人のキャラでもかなり好きなほうに入るかもしれない。性的な意味で。
他に、「ダーティ・ペア」のパロディっぽいスペオペで終盤にはTS展開もある「STAR TRAP」、姉の恋人に憧れる大人になりかけの少女と、その幼なじみの男の子を描く「ハプニングサマー」、彼氏との初体験がうまくいかなかった少女が、先輩のメガネっ娘に手ほどきしてもらう「亜麻木硅ベストヒット チェリーなゆううつ」、ひと夏の恋を描いた井出安軌監督の「サマーウィンド〜少女たちが運んだ夏〜」、幼なじみを振り向かせるために少女が大人に変身する「二人のハートブレイクライブ」、二人の男が旅の途中で訪れた城で官能と恐怖に満ちた体験をするグロテスクなホラー「DARK〜ダーク〜」、総集編「くりいむレモン3周年記念スペシャル 卒業アルバム くりいむレモン総集編」などがある。
00年代に入ってから18禁の「新世紀くりいむレモン」、しほの涼が亜美を演じた一般作「くりいむレモン NEW GENERATION」、それに実写版などが製作されたけれど、これらはまあ……うん……。