魔術士オーフェンはぐれ旅 我が呼び声に応えよ獣/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫

我が呼び声に応えよ獣―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫)


行方不明となった姉を探す旅に出てから5年。トトカンタで借金取りをしながら自堕落な生活を送る魔術士・オーフェンの元に、不良債権者である地人兄弟が金策の話を持ってくる。それは、とある名家令嬢への結婚詐欺の話だった。のこのことついていった先の名家・エバーラスティン家で、オーフェンは変わり果てた姉と再会する。


ひたすらに幻想的/抽象的だったデビュー作から一転。編集部言うところの「アニメとか漫画とかの面白さ」を取り込み、表面上はライトノベルの、というか当時の富士見ファンタジア的なフォーマットを整えた「オーフェン」シリーズ第一作。話の筋は分かりやすく、視覚的な描写を多くして、設定は具体的に。愛読しているロス・マクドナルドマーガレット・ミラーなど愛読している翻訳小説に影響を受けたと思しき文体は結構硬めで、言葉遊びなどは鳴りを潜めている。主人公オーフェンの原型は、「ドラゴンランス」シリーズの皮肉屋レイストリン。


話の雰囲気は、ハードボイルド風味青春小説、と言えば当たらずとも遠からず。しかし、そもそもが矛盾してる組み合わせなので、所々ハードボイルドになりきれず浪花節のような湿っぽさが顔を出す。女のことでエリート街道からドロップアウトし、今は借金取りで糊口をしのいでいる(この設定自体は本編無謀編通してあんまり活用されたことなかったけど)、なんて言うと30代40代の主人公の設定としても通用しそうだけど、そこをあえて二十歳の青年とした辺りにこのシリーズの味があるんだろうな。いずれにせよ基本はシリアスなので、海老男の辺りとか、ギャグが少し滑ってるなあ、と感じる部分もあった。が、「思い詰めない」ためにはきっとこれくらいが丁度いいんだろう。海老男はキリランシェロのためにわざとああいう間抜けな役を買って出たんだきっと。一方アザリーは基本的にひどい女であり、そういう女のケツを追っかけて人生を棒に振るからこそオーフェンの苦い青春がまた際立つのだった。


なおオーフェンは姉を探す旅の途中でなんで借金取りなんかやってたの?という疑問に対しては、最終的にこの長編第1巻に接続される形となった「無謀編」終盤でアザリーのことは半ば諦めかけていたような描写があり、その辺りを加味してアザリーと再会した時の心情を想像してみると楽しいかもしれない。

余談

  • 「俺を殺すんだってよ?」とドラゴンの紋章に話し掛けるオーフェンは後々のことを考えると結構アレだ。
  • 処女から生まれることが有能な魔術士の条件って迷信はなんか元ネタがありそう。
  • なんで上流階級のご婦人に睡眠薬が必須なのかいまだに分からない。
  • アザリーは塔ではアイドル的存在だったとか(偶像は偶像でも邪神像とかじゃないかアレは)、トトカンタの警察が優秀だとか(避難誘導に関して言えば優秀なんだろうか)、無謀編を読んでいると笑いを誘われる場面も。
  • 「明らかに嘘をついてるとわかっている時にまで信用してしまうのは、盲信というもんだ」サリオン@エンハウの「信じるに値しないことを信じる。それだけが本当の意味で、信じるってことなんだと僕は思う」理論からするとこの時のオーフェンの心理状態がよく分かる。
  • ハードボイルド、というとファンタジア大賞での秋田の一つ上の先輩である麻生俊平の受賞作『ポート・タウン・ブルース』。
  • 現在スパイシー・スパイシードロップさんと booklines.netさんもガンガン感想を上げていってるので、みんな読めばいいじゃない。