日帰りクエスト(1)〜(4)/神坂一/角川スニーカー文庫

なりゆきまかせの異邦人(ストレンジャー)―日帰りクエスト (角川文庫―スニーカー文庫)


『なりゆきまかせの異邦人』『困ったもんだの囚われ人』『見物気分の旅行人』『まちがいだらけの仲裁人』の全4巻。


異世界の危機を救うべく召喚された主人公。しかし彼女は伝説の勇者でもなんでもなく、普通の女子高生に過ぎない。ただし退屈な現実から逃げ出すべく、異世界からお呼びがかかるのを待っていたという、前向きなんだか後ろ向きなんだか分からない性格の持ち主だった。


主人公が「遊び人、LV1」のままだからか、神坂一の庶民っぽさが存分に出てるシリーズ。異世界の料理を全品無添加・無農薬と評したり、塩や香辛料が貴重品だからとこちら側で購入したものを向こうで売りつけ代金として金貨を貰ったはいいものの普通の女子高生の身ではなかなか換金できないとか、そういうネタがふっつーに楽しい。タイトル通り主人公のエリは基本的に「日帰り」で異世界に観光に来てるわけで、気軽にサクサク読める。既存のRGPやファンタジー小説のパロディ、つうかなんかそんなような小説としては、どんどん本格ストーリー色を強めていった『スレイヤーズ』の本編2巻以降及び奇抜なキャラクターで笑わせる『すぺしゃる』の後半よりもこちらを取りたい。また、そんな彼女だけど、いつの間にか、それこそ「その手のお話のように」美形の王子に好意を抱かれ、(何かを解決したことより火種になることの方が多いのに)国家の英雄として祭りあげられ、こちらの世界では子供騙し程度の知識を披露しただけで賢者と賞賛される……といった過程も面白かった。


狭義のロー・ファンタジー異世界往還系の物語において、異世界の何らかの部分が現実世界を反映していて、それが主人公の人間的な成長に繋がる、というのが重要だというのなら、その手の作品としても実は至極真っ当。こちらに書かれている通り、異世界にあってこちらの世界にいない物、竜人(ギオラム/ラノベのロケ地巡礼に定評のある人のHNの元ネタ、らしい)たちは『「もし地球上に人間以外に知的生命体がいたら」というifを元に生み出されている。』生物であり、ここを軸に物語が展開し、エリと異世界の人たちは相互に影響し合い、成長していく。『キノの旅』みたいに「ラノベなのに深く考えさせられます」的な褒められ方はされないけど、神坂一の長編作品ってこういうテーマがあるからこそ安心してエンタメやってられる、みたいなところはあると思う。


あとは、やっぱり竜神官ベヅァーかな。エリにコケにされ、4巻かけてじっくりと狂気を募らせていく。作者自ら「こいつならどれだけ不幸にしてもどこからも文句来なさそうだし」と言い放つだけあって、その過程はとてもねっちり。流石影の主役。他、全体的に作者が竜人の方に感情移入して書いてるように思った。『星界』とは違った意味で異種族小説よね。


……4巻あとがきを読んでいたら、最後に(当時の)神坂一全著作及びメディアミックスリストがあった。電撃ではデフォだけど、スニーカーでは珍しい。95年4月、スレイヤーズのTV及び劇場アニメを控えた時期の新刊。角川グループ総力を挙げてのメディアミックスだったんだなあ、ということが伺えた。ザ・スニでも巻頭特集組んでたしな。