ひまじんの姿勢にみるHentaiAnimeのこれまでとこれから

昨年夏、ひまじん、というレーベルがアダルトアニメ業界から撤退した。大元の制作会社が自社製作を開始してから3年足らず、と非常に短命に終わってしまったものの、その活動の活発さは多くの人が認めるところだろうと思う。


ひまじん以前と以降で何かが変わったとは断言できないが、業界の変化を如実に示したレーベルとして見ることは可能だ、とは言えなくはないだろうか。その時代の変化とは何かと言えば、話は単純。Hシーンの長さ。本編が25分あるなら20分以上がHシーン、というある意味開き直りとも言える姿勢だろう。


以前は18禁といえど、そこまであけっぴろげではなかったと思う。短いものではHシーンが5分にも満たず、オマケ扱いなんてこともざらだった。お話の中の一要素としてHシーンがある作品。お話とは別のラインでHシーンがある作品。もしくは、Hシーンは商業的な理由により付け足されたに過ぎなくて、スタッフが18禁という規制の緩いフィールドを利用して別のやりたいこと(バイオレンスなものが多そう)を追及した作品。良くも悪くも、一昔前に「OVA」といって連想されるようなラインナップが存在した、と思う。一番最後の代表的な例を数多く生んだのが、りんしん梅津泰臣といった人気アニメーターを抱える制作会社アームスだった、というのは皆さんご存知の通り。が、このアームスが2004年の『MEZZO』辺りからTVアニメに軸足を移し、ほぼ完全に18禁から撤退してしまう。


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それにかわって、というわけではないだろうけど、同年、『戦乙女ヴァルキリー』からひまじん(正確には「ひまじん」ってブランド名で、ゑにっくが、というべきなんだろうけど)は自社制作を開始する。最初に述べた「俺たちはあくまでエロアニメを作ってるんだ!他のことなんて知るか!」という姿勢が受け入れられ、ひまじんは人気ブランドとなった。NTR要素を前面に押し出した、ってのも一因かもしれないけど、ここでは省略。お話の中の一要素としてエロがあるんじゃなくて、あくまでエロ主体で話を作る、ということ。分量的にも内容的にもとにかく抜き重視。この流れは多分それ以前から続いていたとは思うのだけど、ひまじんの登場により決定的になった気はする。


それは原作となるエロゲーが、もの凄く大雑把に言うと萌えゲー?シナリオゲー?と抜きゲーに二極化して、前者の有名タイトルの多くがアニメ化する際はTVシリーズとして制作されるようになったことと無縁ではないのかもしれない。―――サーカスの『水夏』とか、TVA『D.C.』第一期と同年だったけどなんでアレ18禁だったんだろう。あと2、3年遅ければ非エロでやったんだろうか。再アニメ化した『ONE』も何故あのタイミングで18禁なのかよく分からなかった。―――オーガスト作品のような比較的シナリオとエロとバランスのよさそうなものでも、エロを抜き取ることでTVシリーズに対応している。或いは『エルフェンリート』や『かのこん』のようなものが(視聴制限付きとは言え)TVシリーズで放映されるような現状なら、既存のいわゆるエロアニメ枠でなくともある程度の性表現も可能なのかもしれない(とはいえやっぱりことエロに関しては、18禁と非18禁は別物だとは思うけど)。エロゲーのように種類も数も多くないから、1度ある路線が流行りだすとそれ以外が見え辛い、ということもありそうだ。


……と、思いついたところを並べてはみたものの、本当はユーザーがみんな「エロシーンをより長く!より濃く!ストーリーは無駄に自己主張すんな!」と望んでいたから、というのが一番納得の行くところだったりする。それはとても自然なことだし、一面的には自分も歓迎している。先述した通り、アダルトアニメは本数自体がエロゲーと比べて多くないから、どうせ資金と人員をつぎ込むんならエロにつぎ込んでほしい、というのが偽らざるところ。梅津泰臣作品で言うなら、『A KITE』くらいエロが話に絡んでるんならともかく、『MEZZO FORTE』くらいおざなりなら18禁である必要ないのかな、とは思う。10年前の発表当時ならいざ知らず、マニア向けの商売がTVシリーズでも成立してる現状では。ただ、どんどん即物的なものを追求してった結果、『初夜』みたいなのが作られなくなるんなら、それは勿体ないなーとも思う。そもそもアレは竹書房製作ということで、経緯からして他の作品とは違う気がするけど⇒参照


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(付録として『初夜』を完全収録したDVDがついてくるらしい)


最初に言った通り、ひまじんも去年の夏にアダルトアニメからは撤退している。その理由は、『そらみず(下)』の作画監督が黒田和也でなくなったことなどから、『怪物王女』『狼と香辛料』などTVシリーズの方に人員を割いたため、なんて言われているけど、実際のところは分からない。ただ、ひまじんブランドで発売されていた作品の続編をアムールや鈴木みら乃、二匹目のどぜうといった姉妹レーベル(エロ満載、NTR大好きな路線的にもひまじんと同じ)から出したり、ゑにっく自体が18禁作品から撤退する、というわけではないようだ。


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業界的にも、とにかく抜き要素第一の路線は続いていくだろう。去年、ちょっとした変り種として、非エロでも有名なアニメーターを集め、動画枚数10000枚以上って触れ込みで発売された『癒してあげルン 西遊記』も売れなかったらしいしなあ。まあ、あの絵柄や演出ではむべなるかな、とは思ったけど……。


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