密会/安部公房/新潮文庫

密会 (新潮文庫)

それにしても、べらぼうな音の氾濫だった。追従、怒り、不満、嘲笑、ほのめかし、妬み、ののしり……そして、それらのすべてにちょっぴり染み込んでいる猥褻さ。とくに囁き声というやつは、便器にまたがった下半身の形にそっくりだ。疚しさが好奇心のマスクをつけると、人間はめくれ反って、裏返しの他人になる。急性盗聴中毒症。


どこも悪くないのに妻が突然救急車で搬送されてしまった。そんな男が、妻を捜して得体の知れない病院に潜入する。『砂の女』に比べると、色々と状況が錯綜していて、分かり辛かった。決定的な証拠はないけど、状況的に次々と妻の寝取られが確定していく展開は息苦しくて、だからこそその手の性癖もちの人にはたまらないんじゃないかと思う。