有川浩と桜庭一樹の「ライトノベル」への接し方

私の男

私の男


桜庭一樹は、まあその前に雑誌のライターやったりゲームのシナリオ書いたりしてるけど、現在の名義では1999年の第1回ファミ通エンタテインメント大賞デビュー、ということになっている。その後、作品の出来はともかく商業的にはあまり成功とは言えない状況がしばらく続くものの、2003年12月開始の『GOSICK』シリーズが人気に。これで上昇気流に乗ったのか、2004年9-11月には『推定少女』『GOSICKⅢ』『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』で3ヶ月連続刊行、翌年9月には『少女には向かない職業』で越境。2006年には『赤朽葉家の伝説』を上梓。これが色々賞を取ったり取らなかったりで一躍有名になって現在に至る。


GOSICK』シリーズまでの数年間で苦労した経験もあってか、桜庭はインタビューや対談を読んでいるとライトノベルレーベルからの出版とそれ以外を区別する傾向が強い、と思う。子ども向けと大人向け。イラストつきとイラストなし。編集者との協力の程度。ブックリストやなんやかやを見る限り乱読家で、ライトノベル/ヤングアダルト/ジュブナイル―――そういうものに読者として特別強い愛着があるわけでもなさそうだ。


図書館戦争

図書館戦争


一方、有川浩はと言うと、2003年に『塩の街』で第10回電撃小説大賞を受賞し、デビュー。これは、最初からハードカバー単行本で、という声があったらしいが、結局、担当編集者の助言により登場人物の年齢を対象読者層に合わせて下げたり分かりやすい見せ場を作ったりして、通常通り電撃文庫で刊行(なんでも電撃小説大賞は大賞取ったら文庫で出さなきゃいけないとか。ハードカバー単行本で出したかった編集の人は大賞を取らないことを願ってたらしい。詳細はハードカバー版『塩の街』あとがきで)。が、翌年の『空の中』はいきなりハードカバー単行本での刊行。大森望の激賞などもあり評判もよく、2006年に開始した『図書館戦争』は「本の雑誌」上半期エンターテインメント1位、2007年本屋大賞にもノミネートされベストセラーになり、現在に至る。


有川は、インタビューや対談では、漫画は大人にも受け入れられてるのにライトノベルは「卒業」しなきゃいけないのはおかしい、ライトノベルの精神を一般文芸に持ち込んだ作品、大人向けのライトノベルを書いていきたい、大人にもライトノベルを分けてくれ、というような姿勢をとっている。実際、学生時代にもコバルトやソノラマを中心として、新井素子氷室冴子久美沙織笹本祐一田中芳樹などを読んでいたらしい。とある著作にはそういった中のある作品へのオマージュも含まれているとか。人気作品がシリーズ化して、外伝(スピンオフ)が出て、アニメ化されて……って流れも、まあライトノベルに限った話ではないけどライトノベルに多く見られるものではあるわな。


大雑把な捉え方だとこの二人、大体同じ時期に越境して成功した同世代の(桜庭は71年、有川は72年生まれ)女性作家というイメージなのだけど、ある意味対照的な存在よね。まあ、どっちが正しいとか間違ってるとかいうわけじゃないし、ライトノベルレーベル出身の作家はみんな考えが共通してたりするより、ずっといいかな。


そういえば『私の男』直木賞合わせかどうか知らないけど、桜庭一樹NHKの「トップランナー」に出演するらしいので、観覧希望する人は応募するといいと思う。