田中芳樹と神坂一のちょっとした縁

田中芳樹の『薬師寺涼子の怪奇事件簿』がアニメ化されるらしい。スターチャイルド製作ということで、どうせやるなら主演声優にはあの人を、という声も多い。


今更言うまでもなく、田中芳樹は1982年開始の『銀河英雄伝説』で一躍人気作家の仲間入りを果たした、というのは後世の歴史家ならぬ私でも知っている。彼は1986年には、後のスニーカー文庫にも繋がった角川文庫のファンタジー・フェアで『アルスラーン戦記』を、そして88年創刊の富士見ファンタジア文庫では記念すべき通番1-1で『灼熱の竜騎兵』を開始。ドラゴンマガジン創刊と同時に募集開始したファンタジア長編小説大賞では、選考委員を務めることになる。


その第1回で神坂一の『スレイヤーズ!』が準入選、デビューしたのは皆さんご存知の通り。ということは、田中芳樹神坂一が世に出るのに少なからず関与している、ということになる(当時のDM誌上の選評では、田中芳樹は『スレイヤーズ!』に単品にはコメントしていない。いや、多分スペースがないから削られただけで、何らかのコメントを残してないわけはないと思うのだけど)


その後―――これは確証を取れてないので話半分に聞いてほしいのだけど―――94、95年辺りに大賞の選考委員に神坂一が名前を連ねるのと入れ違いで、田中芳樹の名前が消える(ドラマガのバックナンバーその他の資料がないのでもっとアナクロな手法で調査。手許にある1994年1月初版『銃と魔法』巻末の募集広告では選考委員は「竹河聖田中芳樹火浦功・岬兄吾・安田均・月刊ドラゴンマガジン編集部」となっているところ、1995年1月初版『神々の砂漠 風の白猿神』のそれでは、田中芳樹のところにそのまま神坂一が収まっている。発表時期的に、第6回までは田中芳樹が関わってたってことになるのかな?ああ、全然話は飛ぶけど『風の白猿神』の解説って火浦功だったのね。これも何かの縁か)。ちょうどTV/劇場版アニメが開始して、『スレイヤーズ』人気がいよいよ絶頂期を迎える頃だ。


そして、それから間もない96年、田中芳樹講談社文庫にて『薬師寺涼子の怪奇事件簿』第1作を刊行。ドラキュラもよけて通る、"ドラよけお涼"こと薬師寺涼子を主人公としたシリーズだ。『スレイヤーズ』と共通しているのは傍若無人な女性主人公が暴れ回る、というすごい大ざっぱな粗筋くらいで、影響を受けた、というには大げさ過ぎるし、ああいう性格だからじゃあお遊びで「ドラよけ」とでもしとくかーというくらいの軽い気持ちだったのかもしれないけど、先行している人気作家の人が、後発の作家の作品をああいう形でパロディにする、というのは昔の自分にはちょっとした驚きだった記憶がある。火浦功とかならまだしも、作家性とかも全く重なるところがなさそうだし(田中芳樹はそんなに数を読んでないけけれど)。ただ、今考えてみるとそれ以前にちょっとした縁があるにはあったのだな、とまあそれだけと言えばそれだけの話。


……ひょっとして、『灼熱の竜騎兵』が円満終了して、じゃあ次を、ということがあれば、『薬師寺涼子』がファンタジア文庫から出ることもあったのかな。それじゃあんまり面白みがないか。講談社文庫/ノベルスであのパロディをやった、ということに幾ばくかの意味がある、気もする。


ちなみに、現在までのところ、田中芳樹本人が『スレイヤーズ』と『薬師寺涼子』の共通点について何かコメントした、という話は聞かない。それと、ぐぐってみると『スレイヤーズ』もそうだけど、パロディ元に『GS美神』を挙げる声も結構あった。