魔女を忘れてる/小林めぐみ/富士見書房Style-F

魔女を忘れてる (Style‐F)


あの頃のぼくが好きだった富士見の走馬灯、6月集中刊行、トリを飾るのはこの人。秋田、ろくごと比べるとやや地味だけど、その分様々なものに挑戦してきたベテラン、小林めぐみ、デビュー17年目にして初の単行本。その内実はというと、どっかで「幻想ミステリー」という煽りを聞いたけど、推理小説のような謎解きはあまり重要ではなくて、どちらかというとホラー小説めいた雰囲気。この人なら、一昔前に流行した理系ホラーとかも書けそうなんだけど、とりあえず今回はそういうのはなし。


北関東のとある町に住む主人公の少年たちは、そのほとんどが何らかの家庭の事情を抱えている。彼らは、問題から逃避するように、山小屋に棲みついた"魔女"と呼ばれる浮浪者のところに入り浸っていた。しかしそれも長くは続かず、魔女は殺され、灰となって消えていった。それから4年後、連続殺人事件で町がざわつく中、当時のことをすっかり忘れた主人公の元に、魔女が帰ってきたと連絡がよこされる。魔女の放つ触手に、彼らの抱えた問題が再び浮き彫りにされていく。


少年向けレーベルで主に活躍してる女性作家の人が描いた、地方社会でのドメスティックなアレコレということで、私の知っている範囲でいうとなんだか桜庭一樹を連想してしまいました(この二人ほぼ同世代なんだよな。こばめぐが72年生まれで桜庭が71年生まれ)。実弾を持てないぼくたちわたしたちが砂糖菓子の弾丸で現実を撃ち抜こうと悪あがき。ただ、桜庭の、例えば『砂糖菓子』みたいな貫通力はこの作品にはなくて、どっちかというと真綿でじわじわと首を締められるような感じというか。ガツーンと来る重い話ではないんだけど、閉塞的で、ひどく息苦しい。こばめぐって、こういうの書く人だったかなあ。いや別にいいとか悪いとかじゃなくて。同じ作者のホラーだと、『五日目の月』(角川スニーカー文庫)というのがあったんだけど、こういう雰囲気ではなかったような。もう読んだの10年位前なので、ほとんど覚えてないけど。これは、新境地、ということでいいのかなあ。あんまり作者のプライベートのことを作品に結びつけるのもアレだけど、結婚して子供が生まれたことによる作風の変化、とか?いやもっと明るい話書きましょうよ。……というのも安易ではあるが。むしろ、これから子供を育てていくに当たっての意思の強さ、みたいなのも感じられるし。


幻想がどうしたこうした、という部分は雰囲気作りとしては結構好きなんだけど、あくまでドメスティックな問題のがメインに感じたので、あんまり言及するようなこともないかなあ。


あとはー……ああ、双子属性がある人はオススメです。作者が公式で、(冗談めかしてでも)「いちばんの見どころは、双子です」というくらいには。なんか、あの二人が出てくるパートだけいつものこばめぐの変人キャラが全開。と、いうかこの人がああいう描写するとは思わなかったので、ちょっと驚いたよ。やっぱりホラーにはああいうシーンがつきものなのかスクリーム。