番狂わせ 警視庁警備部特殊車輌二課/押井守/角川春樹事務所

番狂わせ 警視庁警備部特殊車輌二課

番狂わせ 警視庁警備部特殊車輌二課

  • 機動警察パトレイバー」において主人公たちが属する「特車二課」の名前をタイトルに冠してはいるけれど、文字数的にはおおむねサッカー薀蓄小説。ストーリーは、サッカー親善試合のテロ予告に特車二課が総力を挙げて立ち向かう、というもの。
  • 主人公の名前が泉野明(いずみのあきら/旧シリーズでは「いずみのあ」と読んでいた。男性)、他にも後藤田隊長(旧シリーズでは後藤隊長)とか帰国子女の香貫子(香貫花)、大田原(太田)、御酒屋(進士幹泰)とか出てきて、あー真っ向から名前使うのは問題あったのかなーと思ったら、あの特車二課から数えて三世代目に当たる人たちの話らしい。旧シリーズから継続して登場するのはシゲさんくらい?各キャラの造形は旧シリーズメンバーを邪推を持って眺めたらこんな感じになりました、というところ。遊馬に当たる人物は何故かいない。作中世界ではパトレイバー自体が「趣味の産物」「ロボットなのに有人というだけで役立たず」と非難を浴びて無用の長物になりつつあり、特車二課も辛うじて組織として維持されている状態。個性豊かで偉大だった初代(と三代目は思い込んでいる)と比べて、どうしても見劣りする三代目として怠惰な日々を送っている。……なんて書くと夢のない話だけど、本作はそこから、じゃあ彼らが生き残っていくためにはどうしたらいいかが、サッカーの戦術に喩えて語られる。レイバーも最後にはなんだかんだで見せ場があったり、三代目の悲哀とプライドが描かれたり。押井守パトレイバーという作品に対するひねくれた愛情が伝わってきた。旧シリーズのメンバーをもじったようなネーミングは、多分その辺りを強調したかったんだろうな。
  • 作中では再三にわたって、人員配置の重要性が説かれる。高校時代サッカー部に入っていた泉は試合を行うチームに合流し、内部から調査を行った。その点も功を奏しテロは防がれ、特車二課は一躍名を挙げる。が、それはそれとして事件の後、この三代目メンバーは解散してしまう。泉は地元のサッカーチームに選手として転進し活躍。他のメンバーの第二の人生は三者三様。これも然るべき人員配置を行った結果だったのかな。彼らと同じように、レイバーも特車二課がなくなったとしても、働く場所を変え役割を変えどこかで生き残っていくんだろうか……。できればそう願いたい。
  • この感想がおおむね自分の言いたいことを言ってくれていた。そもそもパトレイバーって何かテーマを一つに絞るんじゃなくてキャラと舞台設定だけ用意して各話テイストがバラバラっていうのが肝だと思ってたので、レイバーの見せ場が少ないから駄目だ、と言われてもなー。レイバーの末路についても、ああいうリアリティを前面に出した作風ならむしろいつかぶつかっていく問題で、それでも旧シリーズには浪漫があったんだ!というならこの小説にも相応の浪漫はあると思った。