愛と哀しみのエスパーマン/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫


ヒロインにひどいフラれ方をしたことでエスパーマンとして目覚めた王子悟。彼は哀しむことにより力を発揮する、哀しみのエスパーマンだったのだ!喜びのエスパーマン金剛地に引きずられる形で、悟は戦いに巻き込まれていく。


「エンジェル・ハウリング」を完結させた秋田が次に執筆したのは、なんとヒーロー物コメディ。ファンタジア文庫に収録されたものとしては2005年に発売されたこれが最後の作品ということになっている。「オーフェン」の終盤くらいから「シャンク!!ザ・ロードストーリー」もこれも、ドタバタギャグを無理して書いてるように感じられてしまい、刊行時はあんまり面白くなかったし、周囲の評判もよろしくなかった。が、今読み返してみると、これパロディギャグの部分は秋田なりの照れ隠しで、わりと真面目にヒーロー物をやりたかった(そしてそれが結果的にギャグになる、というだけで)んじゃないかなあ。つまり『ハンターダーク』は『エスパーマン』リベンジ。

建前だから本音より下などと子供のようなことを言うものではない。本音より正しい建前ならそっちに従うのが当たり前だ!屁理屈などいらん!むしろ本音を建前より優先するなどケダモノの惰弱に過ぎん。馬鹿どもは死ねばいいのになー的な本音など、社会を健全に保つ建前には劣る故、許されぬが当然のこと!

「特に役に立たないように思えることとか、くだらないこととか、夢みたいなこととか、わずらわしいこととか、恥ずかしいこととか、失敗するとか。そういうのから逃げずに積み重ねていって本当のマンになるんでしょ」

大変だぞーそんな人の笑顔なんてものは背負い込むのは。くっついたらハッピーとかそんな甘いもんでもないぞー。そんだけの覚悟を長く持続するのはもっと大変だぞー。責任がどうして生じるかってーと、幸せを続けるためじゃないか。そんなの誰にだって分かってるはずで。


つうか「オーフェン」もヒーローの困難さ、を描いた作品であってそう考えるとテーマはずっと一貫してるじゃねえか馬鹿馬鹿俺の馬鹿。信者失格。そう考えると、基本的に硬い秋田の文章(「親がまだ旅行から帰ってきてないので昼食など用意してこなかった。おかげで激しく飢えている」とか)でゆるいラブコメをやろうとすることによって生まれる変な味もなんだか愛しいような気がしてきた。でもこの作品で自分が好きな部分って最後のほうに集中してるんだけど、秋田によると当初はこの連載4回で終了して単行本にしないでおこうぜ!とかいう話もあったらしいので、気のせいかもしれない。というか秋田的には漏れちゃいけない部分が漏れちゃった感じなのかなー。


ちなみに鳴瀬教子という、「閉鎖のシステム」にも出てきた人がこちらにも登場しているけれど、これは作者曰く単なる偶然とのこと。あと「黙れ豚」という台詞は実はない。「黙れ」と「豚」はある。