ひがえりグラディエーター/中村恵里加/電撃文庫

ひがえりグラディエーター (電撃文庫)

ひがえりグラディエーター (電撃文庫)


妹が神隠しに遭ってから6年。そのことを忘れないようにしながら日常生活を送る主人公・蔵人の元にどこか妹と似た少女が現れる。アールと名乗る彼女は、こことは違う異界から来たのだという。そして彼女の住む世界では、地球から拉致してきた人間同士を戦わせる娯楽が人気を得ているらしい。妹が異界で生きているかもしれないという希望を抱いた蔵人は、その戦いに身を投じていくことになる。


後輩ちゃんのキャラ作りとか多少あざとい方面に振られてるものの、基本的にはいつも通りの「ちとにくとほねのものがたり」。わざわざ「ゲームなので傷を負ってもすぐ治る。でも痛い」という設定をつける辺りは、純粋に「痛み」のみに拘るつもりなのかなあと思った。そこら辺、ゲーオタとしての一面と合わせてちょっと冨樫義博と似てるかも。主人公は人を傷つけるなら自分が傷ついた人がいいという思想の持ち主で不気味がられている。これはすぐかっとなって人を傷つける「ダブルブリッド」の太一朗とは正反対。女が参謀、男が前衛ってのも近年の傾向としては珍しいっちゃ珍しいけど、特筆するほどのことでもないか。主人公に兄弟姉妹がいるって設定は全作一貫してるものの、今回ようやく前面に押し出してきた感があった。


ちょっと面白いのは、主人公が異界で行われる戦いで報酬を貰っていること。しかも最低ランクで三万円、大会で入賞しても百万円と具体的且つわりと現実的な金額が提示されている。その報酬目当てに発展途上国貧困層が積極的に参加することもあるとか。主人公は初戦の賞金をお米券に替えて母親にプレゼントし、後輩ちゃんは遊ぶための小遣いのほか、大学進学など将来のために貯金している。現代日本が舞台で、普通の高校生を主人公としたラノベではあまり聞かない設定だ。これって主人公が非日常を送る一方で日常がないがしろにされないようにっていう恵里加ちゃんなりの配慮なのかな。「ダブルブリッド」「ソウル・アンダーテイカー」「ぐらシャチ」(そういえばタイトルはぐら繋がりですね)と違い今回は異世界を片方の舞台としているわけで、その報酬が日常と非日常を結ぶ糸になれば、と考えたとか。


ふわふわした感じのイラストは悪くないんだけど、「眉間が広い」「眉が太い」という描写から、主人公に対して恵里加ちゃんは多分もうちょっと男濃度が濃いのを想定してたんじゃないかなーとは思う。


いずれにせよとても面白かったんだけど、同じく内容的には1巻使って丸々序章って雰囲気だった「ソウル・アンダーテイカー」「ぐらシャチ」のように続きが出ないなんてことにならないか不安。絵師の人のサイトによると一応執筆してはいるみたいだけど……?