折れた竜骨/米澤穂信/東京創元社ミステリフロンティア

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)


中世ヨーロッパ、剣と魔法の世界を舞台としたミステリ。「呪われたデーン人」の襲来に、主人公である領主の娘が兵を率いて立ち向かう戦闘シーンは重厚で、圧倒された。この作者がアクションもいけるというのは意外な収穫だった。中公Cノベ辺りでノンミステリの戦記ものとか書いたらいいんじゃないかしら。デビュー前にサイトで公開していたという完全異世界を舞台にしたハイファンタジーverも読んでみたかったな。


それと

米澤穂信作品全般に見られるこの冷酷なほどの他者≒弱者の切り捨て、「外部」との線引きを、フィクションの倫理に対して自分などよりよほど敏感なはずの名のあるネット書評家の人々が、ほとんど指摘していないのは実に不思議だ。自分の目には、米澤はまさにゼロ年代決断主義/自己責任の申し子とさえ映っているというのに。

http://d.hatena.ne.jp/srpglove/20101222/p1


この感想に同意。今回のお嬢様とか、兄に対して肉親なりの愛着は持っているものの、その能力に対しては無能の一言でばっさり切る辺りがよく言えば痛快、悪く言えば怖かった。米澤穂信の作品の多くが日常の謎を取り扱ってるから逆にそこら辺が強調されるとかあるのかなー。「古典部」とかはまさにそういう意識をテーマにしている小説よね。でもそれをテーマにしているからといって、そういう倫理観を嫌いな読者が受け入れられるかというとそうでもなく。リンク先の人が米澤作品について向けてるヘイトは結構同意できるところがあるのでした。…… ただまあそういう弱者切捨て/自己責任論って昔から燻ってたもので、それを今の時代に取り扱ってみたら自己責任論だとか決断主義だとかそういう社会の流れと妙に一致しちゃっただけ、と言われたら否定できないかも。あえてこの時代に取り扱ったところに先見性が、時代の流れは……とかその辺の検証はほかの人に任せたいと思うます。