魔界探偵冥王星O ホーマーのH/越前魔太郎/講談社ノベルス

魔界探偵 冥王星O ホーマーのH (講談社ノベルス)

魔界探偵 冥王星O ホーマーのH (講談社ノベルス)

お待ちしておりました、【冥王星O】……ご存じ、あなた様の女でございます

ああ……あなた様をお待ちする時間は長うございました。あなたが居られませぬ一秒一秒に、この女の至らぬ箇所を思い起こしては、鏡に向かって己を罵倒しましたわ。肌に傷をつけることが許されれば我が身を切り刻んだでしょう。食いちぎってもっとましな形に削りなおしたことでしょう

あなた様が来られると“見えて”からは肌を煮て、あなた様のために身体を洗い清めましたの。何度も何度も。何度も何度も擦ってはあなた様に相応しいように。この女はあなた様の未来しか見えませんわ。【冥王星O】。あなただけがこの女の希望。すべてを差し上げます……なにひとつ置き忘れないでくださいまし!


最近世間を騒がせる凶悪な連続殺人事件。それは、いずれの死体も信じられない怪力で心臓を抉り取られているというものだった。【彼ら】の命を受け、厄介ごとを片付ける主人公がこの事件の解決に乗り出す。


そういえば感想書いてなかった。舞城王太郎原作、電撃文庫(MW文庫)と講談社ノベルスから刊行された、複数の覆面作家による競作企画。内、講談社ノベルス側の、「ヴァイオリンのV」に次ぐ2作目。秋田の担当作がこれであるという公式発表はないのだけど、川崎の某書店で「ホーマーのH 秋田禎信」と書かれたPOPも実際この目で見たし、その書店のソースがネットの情報を鵜呑みにしたとかじゃなければ、まあ、十中八九正解かしらん。以下は中の人が秋田と仮定しての感想。

  • 自分は「V」の後に読んだけど、シリーズの中でこれだけ読んでも多分それなりにいけると思う。「オーフェン」で喩えるなら4巻分飛ばして「暗殺者」から入るくらいの難度かな。
  • 全体の雰囲気はハードで、グロテスクで、重く、でもその奥底には純愛が、とかそんなような。基本的にはハードボイルドな探偵小説+こちらは普通人の異能バトル。
  • 文体は秋田全開って感じでもないけど絶対に隠し通してやるぜ!って印象も受けない。キャラクターの世界観とかはかなりそれっぽい。冥王星Oは、「V」に比べてかなり人間臭かった。敵である【右手を隠す男】と殴り合って、敵であることに変わりはないけど互いに譲れないものが分かった結果、共闘したりとか。
  • 長編で最初から最後まで一人の主人公による一人称語りってのは秋田作品では初めてかな。
  • アクションシーンはなんだか、かどちんが書く普通人VS合成人間みたいな。郊外や廃工場での、VS無数の蟻を操る【右手を隠す男】とか、知能派異能バトルが好きな人にはいいかもしれない。ただお得意の肉弾戦がないのもあってか、「エンハウ」とかとは違った意味で泥臭い。
  • 【傅く女】はヤンデレ。自分の陰毛と爪と主人公を想って吐いた血と下した卵を込めたミートローフを食わせるとか、ああいう風に映像的にも分かりやすく狂気を演出してみせるってのが、最近の作品群の中では浮いてると感じた。人間じゃなくてキャラクター。逆に【涙を流す女】は旦那がいなかったらロッテってこうなってたのかなーという感じで。つまりはいつもの秋田のああいう感じの女性だった。涙と唾液から分泌されるフェロモンで男を支配して食っちまう、とかまんま「女の涙は武器」というストレートさは新鮮。


作家の正体が完全に確定してない状態の読書はなかなか刺激的だった。秋田が関わってるのは確実だっていうのがいいバランス。でも今回はそこにばかりに注視していまいちゃんと捉え切れなかった感があるので、機会があれば読み返そうと思う。