魔術士オーフェンはぐれ旅 我が庭に響け銃声/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫

我が庭に響け銃声―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫)


最接近領編中篇。オーフェンを始めティッシやイールギット、十三使徒の二人などはそれぞれの目的で最接近領に潜入。しかしそれぞれに目的がある故にダミアンに揺さぶられ、互いに殺し合う。未来視の罠によって一層混迷が深まっていき、キャラクターだけでなく読者も翻弄される。マジクとクリーオウはほとんど登場せず、殺伐度も最高潮。


全編にわたってクローズアップされるのは(魔術を用いた)「暴力」の存在。身体一つで拳銃が全く及ばない殺傷力を行使する魔術士は、生まれついての暗殺者である。だが、時代は変わった。魔術士狩りは既に過去のこととなっている。実際に現実を変える力を持つ魔術士は、血生臭い過去を乗り越え、理想を体現しうる。体現しうる、はずだ……。なんというか、「今時帯剣してるのは変態か軍人だけ」「傭兵は時代遅れの職業」という価値観が当たり前のものとして受け入れられている、近代を舞台にしたファンタジーならではのモチーフよね。


ただ、イールギット個人が暗殺や一方的な暴力というものに対してあれだけ拒否反応を示すというのは、初読時にはいまいちピンとこなかった。魔術士狩りが実はそれほど過去のものとなっていない、というのは分かるんだけど、初期に提示された「親が目の前で死んでも動じない」的な魔術士像とズレるんだよなー。なんにしろ、そんな彼女がキリランシェロのことが好きだったというのは皮肉。……あー、キリランシェロが好きだったからこそ暗殺を忌避していたのかも、なんて妄想もアリか。或いは《塔》から十三使徒に抜擢されて、何か思うところがあったのかな。そういうことに関しては《塔》の方が前時代的で血みどろどろどろっぽい気がする。

  • 「ネットワークの使い手は少なければ少ないほどそれぞれのユーザーの力が増す」というのは、わりとそのまんまな設定だな。
  • 「神はいない」「人は自立しない」「だが、絶望しない」あれだけかっこいい台詞を吐いておきながら直後に完敗する男の人って……。
  • 《牙の塔》の戦闘服はちゃんと乳袋ができる。あるいはこれが丹念に寄せてあげた成果か。
  • 狙撃拳銃を考案したのがチャイルドマンってことは、あれも天人の技術の一つなのかしら。