魔術士オーフェンはぐれ旅 我が聖都を濡らせ血涙/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫
キムラック編その1。マジクがタフレムで《牙の塔》に入学したがったのは、足手まといの自分をオーフェンが疎ましがっているのではないか、と思ったからだった。フォルテに諭され旅に同行し続けることになった後は、必然的に以前より戦闘訓練に積極的になり、師に自分を認めてもらいたいと思うようになる。が、そんなマジクをオーフェンは拒否する。これは、タイミングが悪かったとしか言いようがない。確かにオーフェンの言葉は正しいんだけど、それは魔術を習い始める前に言っておくべきことだし、そもそも「機械」のラストで「完璧な構成が身につくまでは魔術は禁止」と命令している。それを緊急の時とは言え何度となく破ってきたマジクをオーフェンが黙認していた(ひょっとしたら本文以外で叱っていたのかもしれないけど)のは、ひそかに弟子の才能を喜んでいたからではないか。オーフェンは学生時代本人が思っていた以上に優秀な生徒だったし、マジクもそうだと思い込んでいた。「あまりにも出来の良すぎる教師の下にいると、生徒はコンプレックスを持つ。それも、いい意味で持ってくれればいいんだけどな……たいていの場合は、逆境に弱くなる」と危惧していたが、結果的にはその通りになってしまった。
このキムラック編を大過なく終えていたら二人の関係はどうなっていたかは、分からない。が、結果としてオーフェンは普通人が魔術に対抗するための手段の一つとして生み出された、キムラックの服毒暗殺者ネイム・オンリー相手に、マジクへの説教の中で取り返しのつかないこととして述べていた殺人を犯してしまう。そして、オーフェンとマジクの立場は逆転する。皮肉と言うか、因縁と言うか、この辺りの込み入った構造には感嘆するしかない。