小説 中華そば江ぐち/久住昌之/新潮OH!文庫

小説 中華そば「江ぐち」 (新潮OH!文庫)


近年では「孤独のグルメ」原作者としても一層名を馳せた久住昌之が25年前に執筆したエッセイ。学生時代から通っている、特に有名でも美味しくもないけれど当人達にとっては不思議な魅力があるラーメン屋を、虚実交えて紹介する。


自分が好きになったこの人の作風ってデビュー当時から変わらないんだなー。店の人間と必要以上に馴れ合わず、仲間たちと彼らの家族構成だとか趣味だとかをひたすらに無責任に妄想し倒す。通学通勤電車で毎日一緒になるだけの人の背景を好き勝手に妄想する、あの面白さ。こういうのって通じる範囲が狭ければ狭いほど面白い類のもので、その半径の外にいる(江ぐちに行ったことがない)自分は厳密には「江ぐちの話が面白い」んじゃなくて、「江ぐちの話をしてる作者が面白い」んだと思うんだけど、ただそれだけを追求してここまで話を引っ張れることには尊敬せざるをえない。個人的にこの辺とも繋がる話。


以前どっかで、最近の大学サークルはネットからネタを拾ってくるので独自の文化が育たない、みたいな話を聞いたことがあったんだけど、こういう話題はこれまでもこれからも生き残っていくんだろうな。