魔術士オーフェンはぐれ旅 我が塔に来たれ後継者/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫

我が塔に来たれ後継者―魔術士オーフェンはぐれ旅 (富士見ファンタジア文庫)


タフレム編その2。魔術士の街だけあって色んな魔術士が登場するけれど、どいつもこいつも人間味溢れる歪みや弱さを持ついいキャラばかり。


ティフィスは傲慢で、自分の属するコミュニティを絶対視し、その価値観が魔術士以外にも通用すると思っている。クリーオウに好意を抱いていたようだけど、相性としては最悪だろう。ハイドラントは残忍で、自分の魔術の強さを過信した結果、オーフェン世界の絶対法則「こと接近戦においちゃ、魔術の強さなんてものはカケラも意味がねえんだよ―――耳元で爆竹を散らすだけでも、人間を悶絶させることはできるんだからな」の前に敗北を喫した。ウォール・カーレンはチャイルドマンへの嫉妬のあまり、およそ非現実的な世界書なんてものに固執してしまう。味方である筈のフォルテすら、権力闘争にオーフェンたちを利用し、自身の身も危ういところだった。「フォルテが何かを断言することは珍しい」一方で「何をするにも唐突な男」、というのは「物静かで常に冷静沈着に見えるが、それはうわべだけの物で、心の中はケーキを前に出された子供のように落ち着きが無い」という性質をよく示している気がする。……


ドーチンが魔術士を度量が広いだのなんだの褒めちぎっている(そもそもお前「機械」で「魔術士は変態と同義」とか言ってたのに)けれど、あんまりそうは感じられない。誰よりも組織を重要視していたチャイルドマンがこの有様を見たらどう思っただろうか。


……色々悪し様に言ってはみたものの、ハイドラントもウォール・カーレンも単なる悪役ではない。いや、まあ悪役なんだけど、彼等が地位とか名誉とか権力とかそういったもの求めたり嫉妬や欲望に駆られたりすることを作品世界が安易に否定しないっつーか。それは十三使徒もキムラック教徒もドラゴン信仰者も同様。アザリーを保身のために抹殺しようとした最高執行部の長老たちですら、「自身の拠り所が消えてしまうことに怯えていた」なんてフォローされている。その辺り、らしいよなあ。これが第二部になると少し様子が変わってくるのだった。


或いは、このタフレム編ってマジクにとっても大きな転換点だったわけだけど、彼等の一人一人が、将来ありえたかもしれないマジクの姿だったのかな。フォルテによって、足手まといであっても一緒にいてほしいとオーフェンが思っている、と諭されるわけだけど、その分師に認めてほしい、という気持ちは強まっていき、キムラックでの反発に繋がっていく。

その他

  • 作中で経過する24時間の流れを追っていった副題が好き。
  • プレ編を見ているとティッシが人の恨みを買っていないとはとても……。
  • 魔術で皆殺しにすることも厭わなければってのは、あれだけ人数がいて尚且つ全員がこちらを殺す気でいるなら、こちらも殺さないように手加減はできない、ってことなのかしら。
  • 「腕力でできないことを魔術でどうにかするのが魔術士」ってのを「腕力で無理なら暴力にパワーアップしてフォローする」と解釈したクリちゃんは多面的魔術理論のいい理解者になれると思う。
  • わざわざ体技室を上階に設置した理由がよく分からない。
  • いざとなればどの階の窓から飛び降りられる連中に非常口なんか必要ないったって、重力中和って失敗したら内臓が爆散するんじゃなかったっけ。
  • 胃液を武器にするのってちょっと山田風太郎キャラっぽいな。
  • 空間転移で身体の向きを変える、とか変態にしかできない発想だと思う。
  • キリランシェロのロッカーのいたずら書きは誰の仕業か。なんとなくハーティア辺りなのかなあという気はするけど。「碇のバカヤロー!」的な。