魔術士オーフェンはぐれ旅 我が胸で眠れ亡霊/秋田禎信/富士見ファンタジア文庫
魔術士殺しの暗殺者、<愚犬>ヒリエッタに狙われたオーフェン。ヒリエッタの脅迫を受け、指定された村に向かうと、奇妙奇天烈な怪物に襲われる。
アクションに次ぐアクションの巻。昼下がり、今はもう誰も住んでいない幽霊屋敷で、派手に魔術を連発する死闘を繰り広げる。<鎧>の鋼線を避けるオーフェンなど、草河イラストも冴えに冴えている。フォノゴロスのクリーチャーは人間の魔術士が作ったものとしてはかなりオーバーテクノロジーだけど、まあこの時点では設定がそれほど固まってなかったということで。
この巻から本格的にオーフェンは過去の自分と対峙することになる。西部編において、オーフェンはメンタル面が弱い。ぐちょでろの死体を見て錯乱して、それを二流の殺し屋に揶揄されるくらいに不安定だ。ナイーヴと言ってもいい。本人もそれを自覚していて、だからクリーオウが殺されたと知る(勘違いだったけど)と、最強の暗殺者だったキリランシェロに戻ってメンタルを補強することで仇を取ろうとする。暗殺者としての過去を持つ主人公、というのは緋村抜刀斎であり御神苗優でもあって、まあ時代的なものも多分に含まれてるんだろうけど、このシリーズの場合暗殺者としての過去ってのがそのまま青春期で、本来の意味である厨ニ病時代の自分を乗り越えることで成長を遂げる、という構造になってた点が巧みだなあとも思った。
で、その殺されたクリーオウだけど、彼女のオーフェンに対する想いってのはこの巻のラストである程度固まったように思える。そもそも何故彼女はオーフェンについてきたのか。「それまでオーフェンみたいな人を見たのは初めてで、すごい人だと思ったから、そのオーフェンにも同じように思われたい」と本人は語る。多分、嘘ではないんだろう。それでも、作者の思惑やシリーズの事情を考慮しなければ、クリーオウのそれが恋愛感情に変わる日も、そう遠くなかったとは思う。けれど、前巻におけるオーフェンの「相棒」発言で鳴りを潜め、この巻の「足手まといでもいい」発言により、彼女は彼女なりのやり方でオーフェンと対等なポジションを得ていくことになる。