ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー/那須正幹/ズッコケ文庫

ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー (ズッコケ文庫)


ある日三人組は、それぞれのあだ名がいつどのようにしてついたのか。そもそも三人はどこで出会ったのか忘れていることに気付いた。そこで自分史作りに取り掛かるが、ハチベエの初恋の人やハカセの母親の交通事故といった思い出が絡んできて……。第38回野間児童文芸賞受賞作。


シリーズ40作目は、米澤穂信作品のようなほろ苦い雰囲気。既に子どもの頃読んだことがなかった巻数まで到達した。自分史製作、なんて言うと子どもには似つかわしくないテーマだと思われるかもしれない。過去なんて振り返るな。前だけ見ていろ。それは確かに正論なんだけど、子どもの頃にこれを読んだとしても、自分は恐らく今と同じように物語に共感することが出来ただろう。自分が物心ついてからハチベエたちの年齢になるまでに、2回ほど引越しという人間関係をリセットする節目を迎えたからかもしれないけど、大人が思っているよりずっと子どもは過去を過去と認識し、振り返って、整理しなければならない機会は多いんじゃないだろうか。目の前を行き来する情報量が多く、且つそれを積み上げていくことが容易なインターネットという道具が身近な現代なら尚更。ニコニコ動画なんかでたかだか2、3年前のアニメのMADやらなんやらに「なつい」タグがついてるのは、そういうことなんだと思う。


ただ、それとは別に今回ハチベエがやたらとしんみりして違和感があるのは、こちらの感想にある通り、『ズッコケ』シリーズが基本的に過去の蓄積ということをしないからなんだろうな。それをもって「こんなのズッコケじゃないっ!」なんて言うつもりは毛頭なく、むしろこういう話もアリな懐の深いシリーズだったんだなあと改めて感心した。でも、シリーズの中でもあえてこの作品を選んだ野間児童文芸新人賞の中の人にはどういう意図があったんだろう。別にこの巻でなくとも、「人気シリーズだしそろそろ受賞させとくか」的な功労賞みたいなものだったらそれはそれでいいんだけど、TV版の『クレヨンしんちゃん』を嫌悪して『オトナ帝国の逆襲』を絶賛するようなアレと同じようなアレだったら嫌だなあ。選評とかあったら読んでみたい。