妖魔アモル 翡翠の魔身変/まみやかつき/富士見ファンタジア文庫

翡翠の魔身変―妖魔アモル (富士見ファンタジア文庫)


地上に妖魔がはびこり、人々がおびえて暮らしていた時代。妖魔王討伐のため編成された、曲者ぞろいの部隊の中に、美しく精悍な青年の姿はあった。天使の顔、赤子の肢体に漆黒の翼を生やした妖魔チコを従えた彼こそ、妖魔王の血を引く直系妖魔、アモルであった。彼は名誉や金のためでなく、ただ「暇つぶし」のために危地に飛び込み、化け物どもを屠ってゆく―――。


第4回ファンタジア長編小説大賞準入選作。初期ファンタジア大賞のデビュー作を刊行してそれっきりな面子の中では、第1回の縄手秀幸、第6回の滝川羊と並んで勿体無いと思った逸材。つうか第4回はデビューした人だけで五代ゆうろくごまるにまみやかつきと鼻血が出るような面子だなあ。


10年以上前に読んだ時は気付かなかったけど、菊地秀行を髣髴とさせる作風だった。こちらの感想にある通り、美しい最強主人公とか、彼に惚れる不幸な境遇のヒロインとか、一芸に秀でた異能者たちとか。クトゥルーっぽいところもあって妖魔たちはおどろおどろしく、でろでろのぐちょぐちょで陰惨な話が続くんだけど、そういうの苦手な自分が何故か嫌悪感を覚えない。どころか、作中で描かれる光景は美しいとすら思え、魅入られていく。あとがきで作者は、夢で見た光景の映像美を再現するためにこの小説を執筆した、と語ってるんだけど、そこら辺のイメージを再現するための描写力がすげえ、と思った。特にファンタジー小説においては、これ大事よね。


また、自分を「下郎」と呼んだというだけで兵士たちを皆殺しにし、生残るために奴隷を囮にしたりする一方、子どものような邪気のない笑みを浮かべてみせる。そんなとぼけたところのあるアモル始め、陰惨な話なのにユーモアを忘れないキャラクターたちも魅力的だった。


デビュー当時この作者は主婦とOLの二足の草鞋を履いていたらしいんだけど、これっきり消息を聞いていない。つくづく惜しい人だった。