ズッコケ山賊修業中/那須正幹/ポプラ社ズッコケ文庫

ズッコケ山賊修業中 (ポプラ社文庫)


近所の冴えない大学生とドライブに行くことになった3人組は、山奥で時代錯誤な山賊の格好をした男たちに囲まれてしまう。抵抗もできず3人+αが連れて行かれた先は、山中を掘り抜いた洞窟に作られた隠れ里だった。山賊たちは1000年以上前に大和朝廷に追われた者の末裔で、土ぐも様なる存在を崇拝しているらしいが……。


『ズッコケ』シリーズの中でもとりわけラストのインパクトが強いことで知られる巻。自分も初読時は、なんだかんだいって典型的な往きて還る物語だと思ってたので、堀口青年が残ると言い出した時には驚いた。今考えると、那須正幹は俗世間に背を向けるアウトサイダーが好きだなあ。この巻では一人の青年がアウトサイダーになるまでの経緯を描き、『探険隊』では世間に背を向け無人島に住みながら(結局は役場の世話になっていたわけだけど)も、最後までそれを貫ききれなかった老人の末路を、『株式会社』では金をうまいこと使ってあくせくした社会からいち抜けた画家を描いている。……初読時、自分は堀口青年の決断に「そんな非常時の一時的な感情が当てになるもんかな」と懐疑的だったけど、同時に心のどこかで完全には否定し切れない面もあった。何の目的もなくだらだら過ごしていたところに、やりがいのある仕事と生涯の伴侶をいっぺんに手に入れて、自分なら果たしてそれに抗することができるだろうか……?という疑問は、いまだ解決されていない。


ただ問題は、あの一族の生活全ての原点である「いつか今の政府を倒して日本の真の国王の座に返り咲く」という野望がどこまで具体的か分からないところだなあ。話の荒唐無稽な部分を作者なりのリアリティで埋めようとすればするほど、「誰がそれを望んでいるのか」という核の部分が曖昧になる。土ぐも一族の一般人の多くは、いつか来る都に攻め上がる日がいつになるのか、積極的に知りたがってるようには見えないし、当の土ぐもさまも特に今のやんごとなき人や政府を恨んでいるような描写はない。1000年前のことだから当然と言えば当然なんだけど、そう考えるとやっぱりこの徒労は何のためにあるのか、1000年の内に目的を忘れ手段ばかりを講じるようになっていはしないか。そういった虚しさばかりが募った。