豊饒の海(3) 暁の寺/三島由紀夫/新潮文庫

豊饒の海 第三巻 暁の寺 (あかつきのてら) (新潮文庫)


シャムの姫と地位も名誉も権力もある覗き爺。

姫の一言で、急に女官たちがざわめき立ち、姫を取り囲んで、旋じ風がころがるやうに、本多を置き去りにして行ったのがおどろかれたが、目ざす小館を見て、本多にも納得が行った。姫は尿意を催ほしたのである。姫の尿意!これが本多に、痛切な可愛らしさの印象を与えた。子供を持たぬ本多には、自分にもし幼ない娘があったら、かうもあらうかと想像されることがみな概念的で、こんな突然の尿意のやうに、肉の愛らしさが鼻先をよぎって飛ぶことははじめてだった。彼はできることなら自分が手を貸して、姫の滑らかな褐色の腿を内から支へて、さしてあげたいとさへ私(ひそ)かに思った。帰ってきた姫は、しばらくのあひだ、羞かしげにしていて、言葉もすくなく、本多の顔を見ないやうにしていた。


誰もが認める文学作品に対して俗っぽいというかアレな見方をしてるのが自分だけじゃないと知って安堵する。そんなことのために検索エンジンはあると思うんだ。