ハーフボイルド・ワンダーガール/早狩武志/一迅社文庫

ハーフボイルド・ワンダーガール (一迅社文庫)


今になってようやく、という辺り相変わらずフットワークの重さを遺憾なく発揮しているわけですが、ああ、はい、大変に胸クソ悪い話で、満足でした。


幼なじみが妊娠し、何故かまるで身に覚えのない「責任」を取らされそうになる主人公。彼は校内で有名なミステリー研究会会長と共に真の「責任」の所在を追及する。……と、一見ミステリ仕立ての内容ではあるんだけど、序盤で多くの人が犯人を察知してしまうと思うので、ネタバレ全開で行くと……いやあ、家族っていいですね!こういうジャンルの場合、相手の男って

  • 主人公とヒロインの共通の知人(クラスメイトとか)
  • 主人公の家族(父親とか兄弟とか)
  • 主人公の知らないヒロインのみの知人(職場の同僚、部活の先輩、家庭教師etcetc)
  • 主人公ヒロイン共にそれまで全く知らなかった人間(ヤクザとか)
  • そもそも人間ですらない(触手とか)


辺りに大別されると思うのですが、特に主人公と血の繋がった相手の場合、「どうして自分じゃないんだろう」というネガティブ感情がより一層増幅されて、もう、溜まりません。それが自分よりコミュニケーション能力とか学力とかにおいて長じている相手なら尚更(同人だけど『危うい彼女』は自分勝手だけど世渡りがうまい兄貴に自分の彼女がチョメチョメされる過程がよかった)。全編これ相手の男を探す過程であり、主人公は最初からある程度その正体に気付いていながら、認めたくなくてその可能性に触れようとしない。このじれったさ(単に構成がおざなりという話もありますが)。しかも、最後の最後でヒロインを擁護してちょっといい話にまとめようとしてる辺りがまた。下手に「○○(主人公)のよりいいのぉっ!○○(相手)なしじゃもう生きていけないのぉっ!」とかするよりイヤーンな感じ。あれだなー自分はこの種の話の場合、相手がナンパ男で、純情な女の子が(或いはそれと知りつつ)騙されていく……的なのが好きだと思ってたんだけど、ああいうのとはまた別物として考えるべきなのかもなー。あと、女の子のキャラを立ててからごにょごにょが判明する方が、というのも、これを読んだ後だと必ずしもそうじゃなくてもいいのかも、とは思った。まだまだこの道は奥が深いぜ。


これで、この後よほどのことがない限り今年の自分的アレゲ小説大賞は、これと『回帰祭』に決定しました。あとは安部公房の諸作品もとてもよかった。来年も良い出会い良いNTRがありますように。……例えば、こんなようなのとかな。