RD 潜脳調査室 Redeemable Dream/秋田禎信/講談社

RD 潜脳調査室 Redeemable Dream


自分とこの作品との繋がりについては、原作アニメは一応チェックしているけど本筋を真面目に追いかけているとは言い難く、キャラ重視の見方をしてるため、そもそも作中時間がアニメの50年前でキャラもほとんど被らない小説版においては特に意味なし。士郎正宗は『攻殻』に触れたくらいで、あとは『邪神ハンター』のイラストの人、という認識。IGは、そもそも制作会社全般にどうこういうことがないのだけど、好きでも嫌いでもない。そんな感じ。


さてこの『RD 潜脳調査室』。同じ士郎正宗原作の『攻殻』とは地続きの世界ということらしい。『攻殻』はまず犯罪者がいて、事件が起こって、ドンパチやって、そしてそれらの核には義体や電脳といった技術があって……というのが多かったのに比べ、本作のアニメ版は似たような技術を扱っていてもより日常的というか、庶民の生活の延長線上にある話に重きを置いていると思っていた。が、小説版はどっちかというと『攻殻』寄りというか、言っちゃうと特に目新しいわけではないテーマに真っ向から取り組んでいるような気がした。


すなわちそれが胡蝶の夢ってやつで、そちらへも『オーフェン』終盤でああいうことをやらかした秋田らしい、ひねった回答を提出していたけど、自分は、『オーフェン』の魔術、『エンハウ』の念糸・精霊と続いてきた「技術への依存」っていう問題を突き詰めた話のように読んだ。技術革新を推進する者、物心ついた頃から当たり前のようにその恩恵(?)に身を浴してきた者、忌避する者。しかし、いずれにせよ誰しもがそれに対して何らかの立場を取らないとならない……。これが、アニメで進行中の時代まで行き着けば、善かれ悪しかれもう少し状況は落ち着くんだろうけれど。まあ『オーフェン』でいうところの魔術士狩りの時代みたいなもんか。


文章は、『エンハウ』以降、『シャンク』『エスパーマン』『カナスピカ』『しもそ』と、地の文に関しては柔らかめなものが続いていたせいか、今回(借り物の)専門用語が多かったからか、結構硬めのように感じた。個人的にはいつになく読みづらかったんだけど、周囲であんまりそういう声は聞かんなー。あと、これは本作に限ったことではないんだけど、『カナスピカ』『しもそ』とよほど特徴的でない限り人物の外見描写がどんどん削れていってる気がする。『オーフェン』では、「黒髪、黒目、黒ずくめ。剣にからみついた一本足のドラゴンの紋章は大陸黒魔術の最高峰<牙の塔>で学んだ証の……」というようなフレーズをこちらが暗記してしまうくらい繰り返してたのに。やはりラノベにおいてはそういう視覚的な描写を意識せざるをえないということなんかな。ここの人が言うところの「3行容姿チェック」ってラノベではテンプレだしな。


また、秋田は登場人物がそこにいるという呼吸とか皮膚感覚を大事にしているとも思ってたのだけど、今回はなんだかモデルルームみたいというか、人工的に作り上げられた有機的な世界とでも言おうか、そんなような感触を受けた。これはリアルメタリアル問わずで、意識してやってるのかどうかはよく分からない。或いは、自分の思い過ごしかもしれない。


余談。随所の物言いに同作者の別作品のことを連想したりした。「この世界はおおむね快適だ。真実や神からは一層遠くなったものの、それか、そうであるからこそ」とか、「ヒトは愚かだと人は言う。そうだよ。その通りだ。ところでなにと比べて愚かなのか、あんたはもちろん分かって言ってるんだよな?」とか、「神はいない。だが神として誤魔化すしかないものは、ある」とか、「意味ねぇ言葉ってもんがある。まあ、いくらでもあるんだが。ひとまず引っかかるのは"どこかになにかがあるはずだ"ってやつだ」とか。「意味の分からないものが世界を席巻している。これと同種のものを人類は山ほど有している。今はまだ、幸いにも」とかも。まあ、秋田が普遍的にそういうことを考えてるってことなんだろうけど。


余談その2。紹介文の「武闘派」ってある意味詐偽よね。リアルモンクじゃないんだから……。そろそろ顔面の皮引っぺがしたり肘関節で刃物を絡め取ったりするデタラメバトルが見たいよー。


余談その3。これは本作とは関係ない話なんだけど、ニュータイプの藤咲淳一との対談記事によると『魔術"師"オーフェン』シリーズは累計発行部数1200万部、ということになってた。この1年で事実上絶版の作品が200万部増える余地ってのはないと思うんだけど……好意的に見れば、前回の1000万部があの時点で既に古い数字だったのかも。