スレイヤーズ(2) アトラスの魔道士/神坂一/富士見ファンタジア文庫

スレイヤーズ 2 アトラスの魔道士 (ファンタジア文庫)


1巻から約半年の間を置いての2巻目。3ヶ月に1度出すことが当たり前の現在の情勢では少し遅いようにも思われるが、当時はよほど刊行ペースが早い人でもない限りこんなものだった。むしろ、1990年1月にシリーズ開始してから2000年5月に完結するまで、『すぺしゃる』や他のシリーズを挟んでも尚きちんとこのペースを守りきったことを賞賛するべきだろう。


この巻では、時として領主すら凌ぐほどの力を持つ魔道士協会の権力争いにリナが巻き込まれる。最初は乗り気でないリナだったが、魔族の影が出てきて俄然やる気に。当時の自分は、リナ曰く「本来、『真理の探究者』たるべき」魔道士がそれなりに近代的な組織を作って政治をやって俗世間にどっぷり、ということに驚いた記憶がある。『すぺしゃる(8)』の超巨大あとがきに曰く、多角経営の大学チェーンみたいなものらしい。こういうのも「ファンタジー」の概念をぶち壊した『スレイヤーズ』ならではなのかな。ああ、でも『すぺしゃる』でとかく研究ばかりで頭でっかちになりがちな魔道士にリナが実践(実戦?)的な魔術の使い方を教える、なんて話もあったような。とすると、大部分は言うほど俗っぽい人たちでもないのか。……少なくとも「グインサーガ』の時点で魔道師ギルドなるものはあったみたいだけど。


戦いは、前巻で魔王を倒してしまい、リナ自身がレベルMAXということもあり、街中で大規模火力が使えない、という制約をつけられる。この辺りが、以降のシリーズにおけるリナの呪文の多彩さを知っている身からすると少々歯痒い。対魔族相手にギガスレ、ドラスレが使えなければあとはエルメキアランスしかないのかよ!魔族との契約については、それを受けた者を倒すには契約した魔族より高位の魔族の力を借りた呪文なら可能かもしれない、という設定で、出てくる答えが魔王の力を借りたドラスレなら或いは、というものなのもなんとも。五人の腹心はどこいった。そもそも、精神生命体で面子が何より大事で、人間相手に本気を出したら死んじゃうような魔族が人間と対等な契約なんてするか?とか。まあ今言っても詮無い話ではあるけど……。シリーズ化が決定したと言っても、設定がちゃんと固まるのはもう少し先の話。


ミステリーっぽい雰囲気と話運びで、グロい邪法とか出てきて、人情話。新装版のあとがきによると、1巻とは意図して雰囲気を変えたみたい。一般的なイメージとは違うけど、これも『スレイヤーズ』の一つの形。