聖ルミナス女学院 #1〜13

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聖ルミナス女学院』は、これから先に何かあるのではないか、と云ふ期待だけで視聴者を引つぱつた作品である。まさに深夜でなければ放映出来なかつたであらう怪作である。

http://www.geocities.jp/ohka234/MediaMix/Animation/Luminous.html


このアニメの情報に初めて触れたのは、『lain』最終回後の新番予告だった。時に、1998年。深夜アニメの黎明期だ。『エヴァ』ブームを中心として、アニメ人口が拡大。96年の『エルフを狩る者たち』の成功から、翌年にはテレビ東京系だけでも一気に10本近くの深夜アニメが放映される。それまではOVAでしか観れなかったようなマニア向けの作品が、テレビでチェックしきれないほど放映されるようになるまで時間はかからず、アニメファンは嬉しい悲鳴を上げた。これを資金面から支えたのが製作委員会方式、実製作の面から支えたのが作業のデジタル化であったが、一方で『ロストユニバース』のように質に問題がある作品も散見された……と、ここまではwikipedia頼りの知ったかぶり。この時期の代表的な成功例が深夜ならではの前衛的でスタイリッシュな映像を見せてくれた『lain』であったが、その後番で同じトライアングルスタッフ制作の本作は……まあ、お世辞にも成功とは言いがたいだろう。


多分タイトルを聞いた人の大部分が思うだろうのと同様、自分も本作の第一印象も「なんだかいかがわしそうだなあ」というものだった。深夜番組であることと、確か同じテレ東で『平成女学院』だかなんだか、そんなタイトルのお色気番組を放送していた先入観があったんだろうと思う。実際、祖父の遺言で山奥の女子高の理事長に就任することになった、内気な少年(とその悪友)。周囲には美人のシスターや幼馴染の妹キャラがいて……という導入だけ見ると、そのようにしか受け取れない。ムフフな展開もある。当時はまだそれほど多くなかったけど、このイメージ通り、ああ、要はギャルゲーっぽい学園ハーレム物なんだな……と思ってしまっても誰が当時の自分を責められようか。


が、実際は抽象的で、掴みどころがなく、ひたすら「妙」な作品だった。雰囲気としては『絶対少年』辺りが近いのかな。好みの問題とはいえ、キャラクターデザインも同時期に出たゲーム版と比べると妙にバタくさく、積極的に萌やそうという意図はあまり感じられなかった。なにせ、作中で一、二を争う人気なのが女装した主人公の悪友だし。彼にしたってC.Vは保志聡一郎(そしてもう一人人気だったシスターが柊美冬。あれ?『ロストユニバース』?)という時点でどうなんだろう……という。


ストーリーは、謎の学生連続失踪事件を解決するため、主人公が奔走するという形で進行する。結局のところその真相というのは期待しすぎるとガッカリするくらいのものなのだけど、とにかくこの番組はそこのところを煽る思わせぶりな演出をしていた。前回消えた女の子の捜索⇒その過程で他の女の子と出会う⇒一応の真相めいたものに辿り着く⇒その女の子がラストで消え、真相はひっくり返される⇒ALI PROJECTの曲と共にEDに突入⇒次の回では、前回消えた女の子の捜索から始まる。大体毎回こういったパターンが繰り返される。教師たちは「こいつらが犯人候補ですよー」と言わんばかりの胡散臭さで、学生たちは作中の言葉で言えば「自由と我侭を履き違えた(だっけ?)連中」ばかり。言いたいことだけ言うので、「○○でしょ」「○○だよね」と聞かれると必ずといって良いほど「ええっ?」と主人公は困惑するばかり……。


主人公の頑張りと失踪事件、ひいては女の子たちの問題の解決とがどう繋がっているのかも分かりにくかった。なんとなれば主人公は既にそこにいない女の子のために奮闘する。消えそうな女の子をフォローしようとすれば、逆にそれが理由となって消えてしまうこともある。最終的には、消えてしまうこと自体が全面的にではないにせよ肯定される。そこには、女の子の問題を解決することで仲良くなる、というような構図はない。主人公のモチベーションがどこから来ているのかすら掴みづらい。最終回でこちら側の世界に戻ってきた生徒が、「理事長が頑張ったから私たちが戻ってこれた」みたいな台詞があったけど、いまいち釈然としなかった、というのが実感だ。雰囲気アニメ、というと漫然と見ることのできる作品というイメージがあるけど、自分にとってはこの作品はひっかかりが多すぎて、イライラさせられることも多かった。いや、分かってはいるのだ。そういうのを作り手が意図してやっているのだろうということは。主人公のモチベーションはちゃんと提示されているし、直接的ではないにせよ主人公の頑張りがなければ彼女たちは戻ってこなかっただろう。ただ、納得がいかないだけだ。


……にも関わらず、なんとなく最後まで観させられた辺り、やはり自分は作り手の思惑にハマっていたんだろうな。実際、少ない感想を見て回ると、自分と同じように「なんとなく」最後まで観てしまった、という人は多い。次回への引きが巧かっただけ、とは言えなくもないけど、この作品が一部の人に妙な求心力を持っていたのは事実で、そしてそれは深夜帯の放送だったからこそ発揮された、という気はする。製作のパイオニアldc―――現ジェネオンは当時からマイナー路線で、深夜枠で奇作を数多く生んだのもむべなるかな。せめてもう少し作画がよければ、今日でも語られたんだろうけどなあ……。メインキャストも、今となってはあまり表舞台に出てくることがなくなった人が多く、寂寥の感は拭えない。