さよなら妖精/米澤穂信/創元推理文庫

さよなら妖精 (創元推理文庫)


これまで米澤作品を何冊か読んできて気に入ったのは、舞台となる土地の描き方だ。『古典部』『小市民』にこれと、どの作品も舞台は地方なんだけど、変に伝奇的要素が絡んできたり、(卑下されるにせよ美化されるにせよ)東京もしくは大都市と対比されるばかりの存在だったり、閉鎖された狭い社会だからとやたら若者が鬱屈とした感情を抱えていたり、といったイメージに凝り固まっていない(そういう意味ではセカイ系云々よりファウスト系への偏見として自分の中に存在するアレゲなイメージとの関連を考えてしまったり)。でもちゃんと舞台が地方である意味というのはあって、それは野性時代asin:4047221066)のインタビューでも語っている通り、作者の歴史と民俗学への興味に裏づけされている、と思う。至極平凡な日常が、有機的にその土地の歴史文化に結びついている、ということ(自分自身、二度地方を跨いだ引越しを経験して土地との繋がりを断ち切られたので、ちょっとそういうものが羨ましいのかもしれない)。ミステリー小説的な推理部分も、郷土の地理歴史風俗文化を調べることで成り立つものがあり、小中学校でやったグループ学習を思い出して楽しい。そうした背景が郷土愛と繋がり、『遠まわりする雛』(asin:4048738119)でのえる様の決意に収束していったのだろう。本作は異邦人が僕らの郷土に闖入してくる、というのが話のミソだったので、そこら辺が分かり易かった。


フィクションの舞台が地方に移った、と言われて久しい。上で述べたような作品群も嫌いじゃないけど、いささか食傷気味の感はあるので、こういう地方でもごく当たり前に日常を過ごす作品が出てくる(といっても米澤穂信のデビューも既に5年以上前なんだけど)のは嬉しい。でも、そういう米澤穂信だからこそ、東京を舞台にした作品というのを読んでみたいかも。『犬はどこだ』は都落ちした男が主人公らしいけど、はてさて。