ロリータ/ウラジミール・ナボコフ 大久保康雄:訳/新潮文庫

ロリータ (新潮文庫)

陪審員のみなさん、少女とのうずくような、甘い、せつない、肉体的―――ではあるが、かならずしも交接の必要のない―――関係を追い求める性犯罪者の大多数は、単に実際上はまったく無害な、いわゆる常軌を逸したふるまい、性的偏倚によるささやかな、熱烈で、じめじめした、ひそやかな行いを、警察と世間から鉄槌を加えられることなく追い求めることを社会から許されたいと願うだけの、毒のない、気のきかない、消極的で弱気な異邦人にすぎないのだ。私たちはセックス魔ではない。勇ましい兵隊のように強姦を犯すようなことは、けっしてない。私たちは不幸な、おとなしい、犬のようにおどおどした目の紳士ばかりで、おとなのいるところでは欲望を押さえるだけの順応性を十分備えているが、ニンフェットに触れるチャンスが一度でも握れるなら一生のうちのどれだけの歳月を捧げても悔いない人間なのだ。

思い出のなかになお残しておけるものを貯めるために、昔の舞台へ、もう一度戻ってみようと思った。思い出よ、思い出よ、おまえは私に何を望むのか?