仮題・中学殺人事件/辻真先/創元推理文庫

仮題・中学殺人事件 (創元推理文庫)


アニメ脚本家として、また自分の中ではもうすぐ喜寿を迎えようという年齢になっても最新のアニメや漫画、ライトノベルへの好奇心が衰えない、こんな年の取り方をしたい人として有名な辻真先のミステリー小説。冒頭からいきなり「この推理小説で起こる事件の真犯人は、読者である君なんです」と宣言してしまう問題作。


毎度お馴染み『ライトノベルめった斬り』経由で名前を知りました。初出は1972年、朝日ソノラマサンヤングで、その後ソノラマ文庫にも収録されているんだけど、その時点で既にこれだけの軽さをもった文体が生まれてたってのは結構衝撃かも。これは考えを改めなあかんっ。まだまだ、自分の知らないところにこういうものが眠ってるのね。感想を読んで回ってると、「文体が古臭い」「大人が子ども向けを意識して無理に描いてる感じがする」といった意見も多くて、まあ古臭いっちゃ古臭いけど、自分は基本ライトノベル読みだからか、あんまり気にならなかった。


キャラクターも、英会話の本を読めば英語の成績がめきめきと上がり、ニーチェを読めば喋る言葉がめっぽう高級になり、護身術の入門書を読めば腕っぷしが強くなる、という風に読んだ本の内容をすぐにマスターしてしまうヒロインとか、現役中学生にしてミステリー作家だったりとかが登場して、彼らが殺人事件に挑むことになる。いかにも漫画的な内容なんだけど、それが単なるキャラクターの強さ、だけに終わらず作品の根幹を成す入れ子構造と絡まってくる……絡まってくるような気がしないでもないのが凄いところ。そして、文体の軽さとは相反するほろ苦い読後感、漫画業界のうんちく……。平井和正『超革命的中学生集団』よりは、こっちを取りたいなあ。