聖母の部隊/酒見賢一/ハルキ文庫

聖母の部隊 (ハルキ文庫)


表題作の中篇及び、「ハルマゲドン・サマー」「地下街」「追跡した猫と家族の写真」といった短編を収録。内、「追跡した猫と家族の写真」は文庫収録時に追加されたものなんで、手に入ったのが単行本版だった自分は未読。中国を舞台にした歴史小説で有名な著者が、現時点では唯一SF畑から出している作品集、ということでいいのかな。直木賞を受賞した桜庭一樹も、野性時代「108冊のブックリスト」おすすめ文庫王国「個人的な文庫オールタイムベストテン」小説トリッパー「私を変えたこの一冊」、で度々名前を挙げている。今まで数冊読んできて、酒見賢一の理知的なイメージと桜庭一樹のどちらかというと感覚的なものを優先させるイメージとはあまり結びつかなかったのだけど、扱ってるテーマを見てるとなんとなく納得。


「ハルマゲドン・サマー」が一番興味深かった。夏の終わりに海にドライブに行ったカップル。彼女は彼氏のやることなすことが気に入らず、不機嫌で、罵ってばかり。だけど、それにはわけがあって……という話。この短編の少々特殊なところは、会話文、それも彼氏を罵る彼女の言葉のみが延々と綴られていること。地の文は皆無。彼氏の言動は彼女の罵倒から類推するしかないのだけど、そこから想像されうるキャラクターは漠然としていて、なんだか読んでる内に、彼女の言葉の矛先が自分に向けられているような気がしてくる。彼女と会話しているのは自分ではないか、という錯覚。ほら、アイドルのイメージビデオとかで水着の女性が浜辺で一人キャッキャウフフしてて、画面の向こう側からこちらに語りかけてくるような形式のやつ。アレに近い。彼女がツンデレ気味ということもあって、こういうエロゲーないかなあとか思った。あ、文庫版のあとがきで唐突にエロゲーの話始めたのはそういうことか!いやそんなバカな。