青年のための読書クラブ/桜庭一樹/新潮社

青年のための読書クラブ


『赤朽葉』もまだ読んでいないし、『荒野の恋』の最終巻が出るまでちょっとした抗議の意味も込めて買わないつもりだった。しかし、出先で中途半端に時間が空いて、冷やかしのつもりで入った書店でこれを見つけたのがよくなかった。試しにパラパラと冒頭部分をめくってみる。……。…………。…………………………。気が付いたら、足がレジに向かっていた。そういえば、『赤朽葉』を購入した時も似たような状況だったなあ。桜庭一樹の諸作品は、どれも冒頭の掴みがうまくて困る。いずれは購入しただろうから衝動買い、というのもまた違うし、後悔はしてないんだけど、なんかこう、何かに負けた気分だ。隣に並べられてた『読書日記』(asin:4488023959)は踏みとどまったのが救いか。あんなの読んで見知らぬ名作を知って、今以上に積読を増やしたくない。

彼女のまっすぐで善良な解釈は時に凛子の意地悪な嘲笑を浴び、時に凛子をはっとさせた。凛子は十五夜の感想を聞くと、瞬く間に論理の空中楼閣を建設し言葉の火矢や砲弾を打ち込んでは、十五夜の単純な純粋さを糾弾した。


さておき、読んでいる間に連想したのは、『マリみて』……ではなく、何故かそのパロディ同人誌のひとコマだった。"貧血エレベーター"ウエダハジメの、『罰当たり山百合会の最後』っての。一時、局所的に有名になった祥子さまがはじめてガンプラ買う方ではない。今手許にないし記憶も曖昧なのだけど、まだ牙を抜かれてない乃梨子さんが山百合会完全解体・学内完全民主主義化を朗々と謳い上げるシーンが目に浮ぶ。一章及び三章の、アウトローが集う読書クラブから生徒会始め体制に抗い、学園に一騒動起こしてやろうという(発端は個人的な動機だったわけだけど)政治陰謀劇っぽさとか、女子校の風変わりな制度でとことん遊んじゃおうという心意気とかから連想したのかもしれない。後者の遊び心は、特に三章、1980年代後半のバブル景気の最中、ボディコン(死語)ファッションの改造制服で扇子を振り回して踊る成金の娘がお嬢さま学校を席巻していく過程で、荒唐無稽さを極めていた。『少女には向かない職業』のバトルアクスとか、『少女七竈と七人の可愛そうな大人』の美少女鉄道マニアという変な属性づけとか、この辺はむしろ一般文芸でやってるからこそ、際立っている気もする。


また、美しいものに対する醜いもの、という『マリみて』……というかライトノベル全般(その中でも『マリみて』は美少女ばかりの女子校ってことで強調されてる感がある)が意図的にあんまり見せないようにしている面を描いているのも印象的だった。これまでの桜庭作品では、この概念は若さに対する老いとセットにされることが多かったんだけど、今回は同年代の中で美しいもの醜いものを対比させてるので、一層分かり易いというか残酷というか。ああいう描き方は女性作家だから出来るものなのかな、なんて思ったりした。


ウテナ』は、インタビューで桜庭本人もちょっと言及していたし、表紙の装丁はいかにも。偽王子なんて概念についても色々考えたいところはあるけど、『ウテナ』通しで1、2回しか観てないんだよなー。誰か詳しい人が語ってくれるのを待とう。そういえばインタビューで寺山修司ブームが自分的に来てる、なんて言ってたけど、寺山修二-彼が主催していた劇団-J.A.シーザー-『ウテナ』で綺麗に繋がっちゃうな。


女子校の文系コミュニティということで、『僕はかぐや姫』と対比させるのも面白いのかな。エピローグの読書クラブの面子を、あの作品の文芸部に当てはめようとしてもうまくいかない。つまり、コミュニティとしての読書クラブは、ひとつところにアウトローが集合して本を読む"だけ"で、何か積極的な活動をしているようには見えない。創作活動をするわけでもないし、活発な文学議論をするわけでもない。でも、場所と時間を共有するだけで、あとは各々好き勝手に本を読んでいるだけの関係、というのはある意味とても理想的なもので、だから数十年後、彼女達はああして再会し、旧交を深めることができたのかもしれない、なんて自分には思えた。

青年のための推理クラブ

小説新潮2006年4月号に掲載され、『読書クラブ』のきっかけになった……パイロット版、っていうのかなこういうのも?掲載当時ならまた話は違ったのかもしれないけど、今読むと、どう反応していいか悩む、というのが正直なところ。ああ、こういうことを『読書クラブ』ではやろうとしてたんだな、という原型のようなものは垣間見えるけど……なんとなく、『読書クラブ』にこれが掲載されなかった理由が分かる気がした。


しかしあれだよなー、煽りの「ライトノベル界のプリンセス」はないよなー。「ライトノベルクイーン」by桜坂洋を何らかの意図で改変したのか何なのか知らないけど、こっぱずかしすぎる。流石に色々賞の候補に上がったりしてる今となっては、単行本の帯にこういう煽りはつけないだろうなー。……つけないよね?

しかし、諸君。世界は本当に(中略)屑女か?

「死―ね!死ーね!死ーね!死ーね!」
それはやがて甲高く大きくなり生涯消えぬほど一人の少女―――一年生の教室で、息を潜め、出っ張った腹を机の下に隠している―――の胸をえぐりながら、冬の空いっぱいに広がって響き続けた。榊野中に響きわたるほどの大声であった。
「……なんでだよ」
誠はあきれたようにつぶやくと、なんの未練もないようにあっさりと学園に背を向け、また歩きだした。休憩所の前を通り過ぎるときに、ふと、離婚したという父親、沢渡止だけは自分の思いを分かってくれるという気がした。答える声はなかったが、気にもしなかった。言葉の腹をそっと撫でて、生まれるのは女の子がいいな、男の子はわけがわからん、と思ったのが最後で、正門をくぐると待っていた女のスポーツカーに飛びのり、それきり閉ざされた色情狂の楽園のことは忘れた。


ふと思いついた改変。ごめん『school days』ちゃんと観てない。……あの学園の血まみれの歴史を綴ったクラブ誌、とかあったらおっそろしいだろうなあ。

他の人の感想

余りにもポジティブな近作のラストは、桜庭自身が最早少女でない自分を充分に自覚し、確実に過ぎてゆく歳月に対して、どのように向かい合っていくべきかという現在のスタンスを物語ったかのようにも思えてくる。

http://d.hatena.ne.jp/fripp-m/20070723/p1

内容からは分かりそうなんだけど、作者名を隠された状態で判別できる自信が、私にはない、です。

http://d.hatena.ne.jp/quaint1719/20070818/1187396497

桜庭一樹が合うかどうかは、まず二ページほど読んでみて、「うわっ読みたいっ」と思うかどうかだと思う。

http://d.hatena.ne.jp/sskr31/20070820/1187615603

青年のための読書クラブ』において桜庭は、ラノベ的なものにより一般文芸的なものを崩し、一般文芸的なものによりラノベ的なものを崩すというアクロバットをやっている

http://d.hatena.ne.jp/mine-o/20070825/1187981390


最後の人のは、『読書クラブ』というより近年の桜庭一樹作品の傾向に対する言及ですが。しかし、この人の作品の感想はみんな熱がこもってていいね。