志村貴子が『放浪息子』で描く家族
- 作者: 志村貴子
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2003/07/01
- メディア: コミック
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ここでも書いたけど、この漫画で描かれる家族ってのが、とても好きです。特に二鳥家。読んでて居心地がよさそう。1巻冒頭の人物紹介に作者が「なかよし家族」と書いているし、シュウちゃん自身も
うちはみんな仲いいよ
お姉ちゃんは時々むかつくけど
そんなにやな奴でもない
と言っているので、そこら辺は両者とも自覚しているのでしょう。かといって四六時中ベタベタしているわけではない。思春期の子どもが二人いるんだから、問題は起こります。例えば、お母さんが髪を切りすぎてしまって、お姉ちゃんが拗ねる回など*1。でも、こういったものは話を進める上で明確な伏線にはなりません。他の、例えば学校での衝突は後々物語の流れを変えていくのだけど、家族内で起こることに関しては、次の話ではなかったように修復されている。「時々むかつく」お姉ちゃんも、随所でシュウちゃんを気にかけてる描写があるし、たまにいじめられても、それが致命的な断絶には繋がらない。うまい言葉が見つからないけれど、要は、お互いがナチュラルに絶妙な距離感を保っている、のかな。あんまり漫画的な誇張がない/もしくはそれを感じさせない。
……でも、いつの間にか、少し怖い妄想にとりつかれてしまって。主人公のシュウちゃんを始めとして、この漫画のキャラクターはどこか人とは違うことで悩んでいます。いずれそのことで家族が破綻するからこそ、今はまだ、家族仲は良好でなければいけないんじゃないか。
ここら辺を強く意識したのが、6巻ラスト。マコちゃんとそのお母さんの会話。男子が女子役を、女子が男子役を演じる、マコちゃん的には一世一代の晴れ舞台で失敗してしまって、それをお母さんに笑われて、マコちゃん半泣き。でも笑い話で済んでしまう。あっはっは面白かったね。……でも、待てよ?この巻でマコちゃんがしてしまったこと*2を考えると(お母さんはまだ気付いていない様子だけど)、そこは単なる笑い話で済むのか?いや、逆に、ああいうことがあったからこそ、あそこは笑い話で済まなきゃいけないのか?
小学生編では、シュウちゃんと高槻くんの趣味が学校でバレかけて多少いじめたりもしたけど、結局この手の問題って、大きなポイントは家族だと思うんですよね。赤の他人はまだいい。受け入れられなくとも、理解されなくとも、他に居場所はある……というのは少々アレな考えですが、選択肢としてはありえます。一方、家族との関係ってのは、切っても切れないもので、避けて通れはしない問題です。
この問題について、シュウちゃんたちの将来の一つの可能性を示してるのが、彼らの先達であるオカマのユキさんの、両親とのエピソード。現在でも一度破綻した関係は完全には修復されていないようです。詳しくは『ぼくは、おんなのこ』にユキさん主人公の外伝が掲載。
- 作者: 志村貴子
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2003/12/01
- メディア: コミック
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実際に漫画本編で、この先家族がシュウちゃんたちの抱える問題と対面するかどうかは分かりません。というか、ああいう空気の、多くを語らない作品ですから、スルーするんじゃないか、という思いの方が強いです。一緒の部屋で生活しているお姉ちゃんが、6巻でああいうことされてもいまだ深刻な問題に発展していないからなあ。まあ彼女の場合、弟の行為をどう思うかより、自分より弟の方が可愛いのは困るっていう嫉妬のが、今のところ強いみたいですが。
ただ、作品内で描かれなくとも、シュウちゃんが女の子になりたいと願う限り、現在の幸せな家族像が崩壊する可能性は残っている。逆に、そういうものを孕んでいるからこそ今は幸せな家族像を描いているんだ、とも言えないでしょうか。……言えないか。
でも、こう考えると、『青い花』の杉本先輩の家って対極だよなあ。杉本先輩が女の子と付き合っていることを家族全員が知っても、拒絶するでもなく受け入れるでもなく、ずばずば切り込んでいく。これもベタベタしている、というのとはまた違うけど、なんぼか漫画っぽい描写をしている、ような気がする。うーん印象論。
- 作者: 志村貴子
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2005/12/15
- メディア: コミック
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ちょうどこれを書く前に、「Beth」という漫画誌の「新・家族観」というテーマのインタビューの面子に、志村貴子が載っているのを発見したのですが、期待してた内容とは全然違ってガッカリしました。てか薄いよ。