魔性の子/小野不由美/新潮文庫

魔性の子 (新潮文庫)


教育実習生の広瀬は、久しぶりの母校で不思議な少年・高里と出会う。彼は幼い頃に神隠しに逢い、危害を加えれば祟られる、と言われていた。クラスで孤立している少年に、広瀬は親近感を覚える。


十二国記』シリーズ開始の1年前に別の出版社から刊行された作品。具体的には、泰麒の倭国でのエピソードで、時系列的には、序章は『風の海 迷宮の岸』、最後は『黄昏の岸 暁の天』に繋がる、らしい(らしいというのは、後者を読んでいないから)。これも、なかなかややこしい位置づけの作品だなあ。


上記の通り、『十二国記』の番外編で、正統なシリーズ第1作目『月の影 影の海』のあとがきでも「この物語は昨年書いた物語の続編であり、本編です」と言ってるけど、個人的には、某シリーズを読んでいなくとも、さして問題ないと思う。ラストが尻切れトンボという話はあるけど、この作品の主人公が広瀬であり、テーマが「同胞だと思っていた人に置いていかれる苦悩」であるとするなら、あのラストの後で泰麒に何が待っているか、泰麒の故郷というのはどんなところか、というのは必ずしも読者(≒広瀬)が知る必要はない、というかむしろ余韻を楽しむためには蛇足にすらなりはしないでしょうか。ただ一方で、広瀬は泰麒が故郷で幸せになれると信じていたようだけど、皆さん知っての通り、あの世界は非常に過酷で、それは麒麟である泰麒に対しても例外ではないわけで。実際に広瀬がそれを知ることはないというのがまた皮肉だけど、そこらへんを加味するなら、やっぱり『十二国記』は読んどくべきかなあ、とも思うところ。順序としては『魔性の子』が先で。……んでも、出版社が違う、というのは確実に読者の幅を狭めてるよなあ。いっそ講談社が権利を買い取ってくれた方が、売上げは確実に上がるんじゃなかろうか。そもそも、なんで別レーベルで出そうと思ったのかもよく分からないけど。


そうした、某シリーズとの関連を除いても、この本には満足しました。つーか、単品として評価するなら、『十二国記』シリーズの他の話よりよかったかも。異世界からの本物の異邦者であるところの高里に引きずられて"こちら"に対して厭世的になっていく広瀬に対する説教は、異世界ファンタジーやオカルト、ひいてはフィクションを楽しむ読者に対する作家としての責任の取り方というか、なんというか。そんな気がしました。