十二国記 東の海神 西の滄海/小野不由美/講談社X文庫ホワイトハート

東の海神 西の滄海 十二国記 (講談社X文庫―ホワイトハート)


シリーズ5冊目にして3作目の主人公は、今までの巻にちょこちょこ顔を出してきた雁国の王・尚隆とその麒麟・六太。


敵役であるところの斡由が、大層素敵な人物でした。いや、こういう人間くさいエゴを吐き出すキャラは結構好きなんですよ。人に褒められるため、という動機でもそれで立派な働きをできるならいいじゃない、と思ったのですが、まあ実際のところ馬脚をさらけ出してしまったわけで。それはしょうがない。しょうがないのだけど、どっちかというとあの世界のシステムの犠牲者に過ぎないんじゃないか、という気がしてあんまり憎めない。あくまで物語の登場人物としてなら。

傲慢であったとしても、斡由には、少なくとも王の価値を問いただすだけの権利はあったのではないかと思うけれど、「王」という地位そのものに阻まれてしまったように思う。


http://d.hatena.ne.jp/rbyawa/20050819/1124465644

一応人間なんだから駄目な部分も書きましょうよ。完璧超人は理想の中だけにしてください。


http://d.hatena.ne.jp/whiteowl/20050626/1119715336


尚隆に関して。昼行灯的ポジションの人が、普段はおちゃらけているけどやる時はやる、というのを見せるのは結構カタルシスがあるのですが。この作品の舞台となる雁国の王が為す行為としては……?つまり、この雁国ってのは、先帝が民を虐げるようになり、崩御してから随分長い間王が不在で、荒廃してたわけです。そんな中、尚隆が王座に就き、国民も「これでようやく平和が訪れる」と安堵します。国民は荒廃の時代の記憶がまだ色濃いからこそ当時に逆戻りすることを恐れ、だからこそ尚隆に対する期待は高い。そんな中、尚隆がバカ殿を気取るというのは、対外的にどうなんでしょう?結果的にそれで政治がうまくいってるとしても、不安を煽り、地方の反乱を無意味に促してしまうんじゃないでしょうか?


まあ、そんな目くじら立てるような話でもないのかもしれないけど、どうもあのシリアスなお話の中で、ああいう活躍の仕方ってのが微妙に引っかかったので。。その内、尚隆の黒い部分が描かれるようなこととか、あるのかなー。