ポート・タウン・ブルース/麻生俊平/富士見ファンタジア文庫

ポート・タウン・ブルース (富士見ファンタジア文庫)


私が自分の中で決めてることの一つに、ライトノベルは図書館では借りない、というのがあったんですが。この本を探し始めて数年、一向に見つかる気配がないので、今回その禁忌を破ってしまう羽目になりました。ライトノベル読み出した当時は、まだ古書店で何回か現物を見かけることもあったんだから、その時に買っときゃよかったよ。てなわけで、後に「ザンヤルマの剣士」を書くことになる麻生俊平・幻のデビュー作にして、第2回ファンタジア長編小説大賞準入選作。


地球外知的生命体との接触、そして侵略。敗戦の結果、人類にもたらされたものは何かというと、一度就いた職は決して変えられないという職業選択の不自由と、市民一人一人にその社会的地位に見合った「生涯生産指数」なるものが附与され、人を殺してもそれを穴埋めするだけの賠償をすれば済むという占領政策だった。劇中で、何故異星人がそんなことをしたのかは明確に語られていませんが、暗いとか重いとか言うより、単純に夢も希望もない話ではある。主人公は、そんな世界で私立探偵を営む中年男性。終戦後、帰国しているはずなのに行方が知れない恋人を探してほしいという女性の依頼を受ける。男の行方を辿る内、探偵は思わぬ事態に巻き込まれていく。


ただでさえ嫌な世界設定だというのに、主人公は中年のおっさん。しかもシュワちゃんジェームズ・ボンドのような活躍をするわけでもなく、小粋なジョークも決まりきらない。



(一応、一番手前が主人公です)


「ザンヤルマ」も「ミュートスノート」も、確かに売れ線とはかけ離れていました。しかし、主人公は一応10代の少年だし、筋書き自体は超古代文明の遺産を巡る戦いだったり、改造人間を擁する謎の組織との戦いだったり、むしろライトノベルではありがちな設定と言えます。しかしこの「ポートタウンブルース」には、そういう要素がない。これ、当時からファンタジアでは浮いてたとは思うけど、現代なら「通るかっ……!こんなもんっ……!」で終わりじゃないでしょうか。


それと、そうした諸々とは別に、少々文章が読みづらく感じたのが気になりました。この人、こんな文体でしたっけ?5年以上前に読んだ「ザンヤルマ」「ミュートスノート」は、確かに生硬で、地の文の量も多かったんですが、もうちょっと平易だったような……。あるいは、ハードボイルドらしく、情緒表現を抑えてるから読み辛いのかな?いわゆるハードボイルドって、「さむけ」ぐらいしか読んだことないんですが……。あとがきによると、この作品、シリーズ化するつもりだったらしく。それが1冊で終わっているというのは、つまり売れなかったんでしょうけど、それはハードボイルド云々と言うより、文体の方に理由があったんじゃないか、という気がしないでもないです。


……あー、それと、ふと


http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ohgai/8783/novel-l.html#fujimi
http://mubooknavi.fc2web.com/lihp/p-jushou3.html


辺りを眺めてて思ったんですけど。ファンタジア大賞、段々おっさん主人公が排除されていってません?「ポートタウン・ブルース」「ひとつ火の粉の雪の中」「銃と魔法」「吉原天災騒動記」など、第10回辺りまでは、まあ数は多くないにせよ、青年-中年の主人公がぽつぽついたと思うんですけど、それ以降があんまりいないような。でも、第10回以降って、私も読んでないのが結構あるんで、気のせいかもしれない。


つーか私も特別おっさん主人公の話が読みたい!ってわけでもないんですけどね。