キーリⅧ、Ⅸ 死者たちは荒野に永眠る(上)(下)/壁井ユカコ/電撃文庫

キーリ〈8〉死者たちは荒野に永眠る〈上〉 (電撃文庫)キーリ〈9〉死者たちは荒野に永眠る〈下〉 (電撃文庫)


上下巻で下巻だけ画像がないって、何の嫌がらせだ。


完結。……3年で9冊。無理な引き伸ばしをするほど売れているわけでもなく、かといって打ち切りを受けるほど売れていないわけでもない。実際はどうか分からないけど、中だるみしたようにも見えなかったし、作品外の事情に左右されなかったという点では、理想的な終わり方をしたといえるのではないでしょうか。


さて、この完結編ではタイトル通り、死者たちが次々と永眠していきます。まず、ヨアヒム。彼の死に様は、納得の行くものではありました。キーリの気を引こうとして、でもそれは彼の一方的な思い込みによるもので、挙句に憎んでいたハーヴェイに命を救われそうになって。鍵の一つであるシグリ・ロウの説教がテンプレートなものでどうにも説得力を感じなかったんですが、それ以外は、これまで散々立ててきたフラグ通りの死に様だったかな、と思います。ハーヴェイよりヨアヒム派の私としては、「あいつが羨ましかった」なんて言ってほしくなかったし、死んでからもハーヴェイが「キーリがいなかったら俺はあいつみたいになってた」なんて憐れむのは正直腹立たしいんですが、まあ、そういうところも彼の魅力の一つだったのかなあ。


次に、ベアトリクスに関しては、劇的ではあったけど、そのあっけなさに不満を持つ人も少なくないようです。私は、まあアレ自体は別にいいんですが、なんで彼女まで死ななきゃならなかったのか、というのがイマイチ……。彼女の場合、他の不死人二人と比べて生にそれほど膿んでる様子が見られなかったので、この完結編での行動がなんだか唐突に見えるんですよね。7巻登場時、ちょっと様子がおかしかったのも、なんでだか結局理解できなかったし。ヨシウとの話はよかったですね。脇役が色気出すのとか大好き。


兵長は、子ども好きの彼の性格が偲ばれるエピソードではあったけど、ちょっと水を差された感も。長く追っかけてきたファンが何を嫌がるって、新キャラによって旧キャラが蔑ろにされることだと思うんだけど、こういうのってどうなんだろうなあ。たとえ死に際に居合わせることができなかったとしても、それで揺らぐことなどない絆が3人の内に、とか。ここまで散々な目に合ってきたんだから、最後くらいなあ……という気もします。


最後に、ハーヴェイ。元々のテーマがテーマだけに、生死ははっきりしてほしかった……というのが正直なところ。というのはあの後、ハーヴェイが回復するような展開が全く思い浮かばないんですよ。むしろ、兵長を弔ったらあっさりと逝ってしまう、という方が想像するのは容易です。「遠からず自分も自分に決着をつける時が来る」ことをハーヴェイ自身が自覚してて、キーリもそれは分かっているんだろうに、「少しの間眠っている」だけかもしれないと一抹の希望を抱いてしまっていて、そこらへんの生殺しはやはり辛いかなあ。それでも読後感が悪くなかったのは、ビジュアルイメージを喚起せずにはいられないに綺麗な情景描写を含んだラストだったからでしょうか。


ハーヴェイが勝手な行動して、キーリが拗ねてふらふらと妙な事件に巻き込まれて、面倒くさいからハーヴェイはほっとくんだけど、兵長の小言で渋々重い腰を上げて……。最後までこのパターンはほとんど変わらなかったけど、反復してるだけのように見せて、実は少しずつ少しずつ展開するハーヴェイとキーリの関係。この辺りの心情描写は、本当にじれったくて、でも丁寧に為されていました。「まわりくどい性格の少女と面倒くさい性格の男がくっついたり離れたりする話」。まさにこれこそがこの作品の魅力だったんじゃないかと。


3年間、お疲れ様でした。完結、おめでとうございます。